『長いお別れ』で語られるギムレットが “本当”と呼ばれる本当の理由
ハードボイルド小説・レイモンド・チャンドラー著『長いお別れ』 (村上春樹訳版は『ロング・グッドバイ』)。「本当のギムレットはジンとライムジュースを半分ずつ、他には何も入れないんだ」というセリフが有名です。このセリフに隠された本当の理由、あなたはご存知ですか?
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ギムレットの現代常識
ギムレットは、まるで錐(キリ:a gimlet)のように鋭い味であることからその名が付きました。霧がかかったような白いカクテルは、錐・霧(キリ)をかけた言葉遊びができるため、日本のバーテンダーから好まれています。ライムジュースの栓を抜くのに錐を使ったという説もあるようです。
ギムレットは、ジン45ml:ライムジュース15mlの割合でシェーク(シェーカーを使って材料を混ぜ合わせて作る方法)するのが一般的。さっぱりしていますが、アルコールは強めです。ちなみに、用意する材料はジンライムと同じですが、こちらはビルド(材料を直接グラスの中でかき混ぜる方法)で作ります。
本当のギムレットの正体は?
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小説『長いお別れ』で登場するレノックスは、「本当のギムレットは、ジンとライムジュースを半々入れるのが正しい。ライムジュースはイギリス・ローズ社が正解」と発言しています。現代のギムレットと比べると、少しライムジュースの主張が強そうです。
じつは、レノックスが「本当のギムレットは~」と発言した歴史をさかのぼると、ジレット(Gillet)・カクテルがベースになっているのではないかという説があります。このカクテルは1917年にシカゴ・スタイルとして、セント・ルイスのバーテンダー、トム・バロックが考案したものだそう。当時のレシピを見てみましょう。
<レシピ> ジレット・カクテル
【材料】
ライムジュース…70ml程度
オールド・トム・ジン(バーネット社)…70ml程度
砂糖…小さじ半分
【作り方】
1.ミキシンググラスに氷を詰める。
2.材料をミキシンググラスに入れて、よくかき混ぜる。
3.カクテル・グラスに注いで完成。
当時はコーディアル・ライムのライムジュースを使うことが多かったようです。コーディアル・ライムとは果汁50%以上のライムジュースのこと。
100gのライム1個からだいたい35ml程度の果汁が搾れると言います。仮にライムジュースの50%がライム果汁だったとすると、およそ70mlのライムジュースを使う計算です。ライムジュースとジンが1:1の割合になるため、ちょうどレノックスが言うギムレットと近いものだと考えてよいでしょう。
ちなみにジレット(Gillet)の「l」を一つ「m」に代えれば、ギムレット(Gimlet)のスペルになります。こんなところにもギムレットの名前の由来が隠れている…という見方もあります。
本当のギムレットを知るともっとカクテルがたのしくなる
ギムレットは、さまざまなエピソードのある定番人気のカクテルです。今回紹介したエピソードをネタに会話すれば、もっとギムレットをたのしめると思いますよ。
参考:
『カクテルホントのうんちく話』 石垣憲一著