地方創生を担う、進化形酒蔵が目指す未来の酒造りとは 〜北海道・上川大雪酒造〜

地方創生を担う、進化形酒蔵が目指す未来の酒造りとは 〜北海道・上川大雪酒造〜

北海道に12番目の日本酒蔵として誕生した上川大雪(かみかわたいせつ)酒造。上川町に続いて帯広市や函館市にも酒蔵を設立し、地域との連携を深めながら事業を展開するスタイルが全国から注目を集め話題となりました。3蔵を統括し総杜氏を務める川端氏に、酒造りを通した地方創生の取り組みについて話をお聞きしました。

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麹室には外から見られる見学者用の窓があり、室中からは四季折々の風景が。
「夏は緑の木々、冬は雪景色が見られる麹室がある酒蔵は日本で初めてだと思います(笑)」。(川端総杜氏)

北海道の酒米を通して生まれた酒造りのセオリー

北海道へ約15年前に戻って以来、北海道産の酒米での酒造りを続ける川端総杜氏ですが、当初はなかなか思うような味わいを出せず苦戦したと振り返ります。

(川端総杜氏)最初に戻った酒造会社で、初めは本州の酒蔵にいた時のような味わいが出ず苦戦しました。水の違いなのか、機械なのか、自分の技術なのか…深く原因を探っていくと、酒造りのデータに“ある法則”が見えてきたのですが、それがどうやら酒米が大きく関与するものだと分かりました。
酒造会社があるエリアは「吟風」の一大産地なので、吟風を使用した酒造りに取り組んだのですが、本州の酒米、特に自分が長く扱ってきた「山田錦」とは大きな違いがあったんです。

イネ科の植物は『感光性遺伝子』を持つので、本州の酒米は日の長さが生育に大きな影響を与えるのですが、北海道の酒米はその遺伝子が欠けていて、気温の影響を受ける『感温性遺伝子』が働くことが解析で分かりました。

遺伝子レベルで酒米に違いがあると、当然、酒造りにも違いが生まれます。
そこで、それまで扱ってきた本州の酒米の概念を一度頭から外して、北海道で育った酒米と向き合い、酒造りの際のデータを細かく分析しながら経過を追っていったところ、イメージする酒質のお酒ができあがりました。

この時、従来の教えの酒造りに囚われるのではなく、酒米や水など、その土地の気候風土をしっかり肌で感じながら酒造りと向き合うことがとても大切だと、改めて気付かされました。何度も試みて、うまくいかなかったら「何故なのか」をしっかり考えて、また試みる。それを繰り返していると、少しずつ、“オリジナルの酒造りのセオリー”ができてきます。こうして私の北海道の酒米を使った酒造りのベースが生まれましたが、これが、今の上川大雪酒造の酒造りの基本になっています。

北海道産の酒米の稲は、本州の酒米に比べて背丈が低いのが特長。

深まる生産者との絆 毎年恒例となった酒米勉強会

2018年から酒米を育てる生産者との勉強会を毎年欠かさず開催し、交流を深めながら前向きな意見交換を行うことで、よりおいしい酒造りができるようになったと語る川端総杜氏。北海道内の各産地に、実際に足を運んで育成の状況を共有することは、酒質を設計していく上で貴重な情報になると話してくれました。

(川端総杜氏)年に一度、生産者さんたちと集まる勉強会には、帯広や函館からも杜氏や蔵人が参加し、夜は懇親会を開いて親睦を深めています。私たちは、酒米の産地ごとに醪(もろみ)のタンクを分けて醸造していて、「名寄彗星」や「砂川彗星」など、酒米の地域を銘柄名にして、その地域の酒販店でしか買えないお酒も造っているのですが、生産者さん同士が、「うちの酒、どう?」などと言いながら、みんなで飲み比べをして盛り上がるんです。
その様子を見ていると、広い北海道で、中にはポツンと1人で酒米を育てている方もいらっしゃいますが、その方たちが、志を共にする仲間と繋がる様子が見られてうれしくて。

よいお米を造ってもらって、それを美味しいお酒にして味わってもらえることは皆さんへの最大の恩返しで、そして、私たちはもちろんのこと、生産者さんにとっても、日々のモチベーションになるのではないかと感じています。

産地と酒米が記されているお酒のタンク。

酒蔵のある上川町は、気候的にうるち米が厳しく「もち米」しか育てられないですが、隣の愛別町は食米よりも酒米の方が気候条件に合うそう。愛別町には約45年前まで「大雪山酒造」という酒蔵があり(現在は廃業)、その当時の杜氏が、お米を作られているそうです。

完璧すぎる酒より“飲まさる酒”を目指して

今年の春、札幌国税局による新酒鑑評会で、上川大雪酒造 緑丘蔵から出品された5点のお酒のうち、3点が、最高の金賞を受賞。ところが、川端総杜氏はじめ、緑丘蔵の小岩杜氏や蔵人たちは、「それはそれで問題」と、頭を悩ませたといいます。

(川端総杜氏)鑑定官の先生方など、プロの方がきき酒して「良し」とされるお酒というのは、一般的に「きれいなお酒」と評価される味だと思うんです。でも、欠点がない、きれいな酒がよい酒という訳じゃない。欠点がない酒は、欠点がある酒よりもつまらないんじゃないかと。
キャラクターが立った“特長があっておいしい酒”が、上川大雪酒造らしい酒だよねとみんなと話しました。もちろん、金賞を3ついただけたのはとてもうれしいことですが(笑)。

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