“日本酒ツウ”が通う名店の絶品ペアリングを自宅でも! 人気店のテイクアウトメニューをご紹介
新型コロナウイルスの影響による営業の自粛をきっかけに、今春からテイクアウト販売を始めた飲食店が増えています。国税庁は、ワインや日本酒などのアルコール類を、料理とともに販売できる期限付きの酒類小売業免許を新設。自宅でも味わえるようになった、“日本酒ツウ”が通う名店のテイクアウトメニューをご紹介します。
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日本酒のストックは4800本 日本酒好きが足繁く通う「Animism Bar 鎮守の森」
四谷三丁目駅から徒歩1分。一面黒壁の外観の階段を下りた地下にあるのが、「Animism Bar 鎮守の森(ちんじゅのもり)」。
かつて日本酒ファンの間で“聖地”と呼ばれた会員制の日本酒専門店「酒徒庵」が、2016年より店名を変更し一般予約を開始。日本酒と料理のペアリングをコースで味わえる人気店です。
四谷三丁目駅のすぐそば。目立った看板がなく、隠れ家的な外観。
店主の竹口敏樹さんは、20歳の時に出会った日本酒の世界に魅了され、飲食業界へ転身。以来20年以上に渡り、日本酒と深く向き合い続けています。
「日本酒のおいしさと奥深さに深く感銘を受け、本を取り寄せて独学で勉強を始め、北から南まで全国の酒蔵のお酒を数年かけて一軒ずつ購入し試飲しました。09年に「酒徒庵」をオープンし、本格的に日本酒専門店を始めましたが、現在、扱っている酒蔵は400軒以上になり、ストックしている日本酒は4800本になります」(竹口さん)。
鹿児島県出身の竹口さん「それまでお酒といえば“焼酎”だったので、日本酒との出会いはとても衝撃的でした。」
日本酒の人気に火がつく前から、ブームと呼ばれるまでになったこれまでの移り変わりを、生産者と消費者の狭間に立って見続けてきた竹口さん。現在は、さまざまなタイプの日本酒が造られるようになり、飲み手の選択肢の幅がバランスよく広がっていると語ります。
「酒蔵とのお付き合いも深まり、この蔵はこういう味をたのしんでもらいたいんだなというのが伝わってくるので、お客様にはそのお酒が一番よい状態で提供できるように心がけています。逆に消費者の直の声が聞ける飲食店の立場から酒蔵に意見をさせてもらうこともあり、お互いにとってよい関係性が築けていますね」(竹口さん)。
店内の日本酒は、―(マイナス)4度、−3度、−2度、0度、1度、2度と6段階に分けて温度設定されたセラーと常温での保管。
「温度が1度違うだけでも日本酒の味わいは大きく変わります。その日の気温や湿度も含めて考えて、一番おいしい状態で提供しています」(竹口さん)。
コロナ禍により春からスタートしたテイクアウトメニューで一番人気なのは、「おつまみセット」。
肉や魚、野菜が入ったバランスのよいおつまみのほかに、自家製たまご豆腐、麻婆豆腐、しらす丼が付いた、ボリュームのあるメニューです。(※季節により内容は変更します)
「おつまみセット」2,500円(税込)
「片手に白いご飯が欲しくなるようなおつまみばかりなので日本酒に合います。」と話す竹口さんの言葉通り、酒肴が揃っています。
めだいの煮付け、豚の角煮、冬瓜、南瓜、鱧の南蛮漬け、ツブ貝の梅肉和え、日本酒に合うセット。
柔らかな食感の自家製たまご豆腐。麻婆豆腐はスパイスが利いていて本格的な味わい。
しらす丼はボリューム満点。
料理に合わせた2種類の日本酒のテイクアウトもお願いしました。
風和 純米吟醸 生酒 1合(180ml) 1,000円(税込)
佐渡産のお米を使用した生酒。「とてもきれいな飲み口です」と竹口さん。
自然郷 無濾過無加水 芳醇純米 1合(180ml) 1,000円(税込)
お米の旨みがふくよかに広がる味わい。
「日本酒はすべて1合1,000円でおまかせ。どの銘柄になるかはその日のおたのしみです。店内では料理一品ごとに日本酒のペアリングを味わえるスタイルですが、テイクアウトメニューはおつまみの品数が多いので、どの料理にも合う、味わいに幅のあるお酒を選んでいます」(竹口さん)。
お店で用意してくれた1合瓶に日本酒を移し変えて販売するスタイル。
長く通われている常連客など、日本酒と合わせてテイクアウトされる方が多く、リピーターも増えているそう。お酒だけのテイクアウトも可能で、自宅で食べる料理に竹口さんが日本酒のペアリングをコーディネートしてくれることも。
「“鎮守の森”は、神社で古くから守られてきた原生林を意味しています。日本酒は、きれいな水とおいしいお米でできた自然の恵み。外食の機会は減ってしまっても、自宅で料理に合わせてその恩恵を味わってもらいたいですね」(竹口さん)。
※リニューアルし、現在は卯水酉(うみどり)として営業しています。
人気蔵元も足を運ぶ、焼き鳥と日本酒のペアリング「焼鳥×和酒 遊」
焼き鳥をビールやワインと一緒に味わうスタイルのお店は多くありますが、飯田橋駅近くにある「焼鳥×和酒 遊」は、焼き鳥を日本酒とともに味わえるお店。店主の地元、栃木県のお酒を中心に全国の選りすぐりの日本酒が揃い、丁寧に焼かれた串や創作料理とのペアリングがたのしめることで、日本酒ファンの間で評判の有名店です。
JR飯田橋駅から徒歩5分。ビルの地下にある店舗。
ご夫婦で営むお店は、カウンターとテーブル席を合わせて20席ほどのアットホームな雰囲気。
店主の田上裕一さんはかつて日本料亭で修行を積み、その後、炭を使用した料理の習得のために焼き鳥店に勤務したところ、奥深さに魅せられ焼き鳥店での開業を決意。同じ頃、従来のイメージを覆す洗練された味わいの日本酒に出会い、料理との相性の素晴らしさに大きな可能性を感じ、2013年に日本酒に特化した焼き鳥店をオープンさせました。
店主の田上裕一さんと奥様の愛さん。お二人のお人柄なのかとても居心地の良いお店です。
「初めて飲んだ時に衝撃を受けた日本酒『仙禽(せんきん)』が、地元の栃木のお酒だったので、ある時、酒蔵を訪ねて蔵元とお会いしたのですが、専務の薄井一樹氏が偶然にも同じ高校の同学年だったことがわかりました。そこから交流が始まりましたが、日本酒の世界に新風を吹き込んだ彼との出会いは、僕にとってとても大きな刺激になりましたね」(田上さん)。
「仙禽」蔵元の薄井一樹氏とは「お互いに叱咤激励し合えるよい関係」と田上さん。
「お店にもよく顔を出してくれます」。
春から始めたテイクアウトは、店内メニューにある料理を、自宅でもおいしく味わってもらえるように趣向を凝らして提供をしているそう。
焼き鳥8本の盛り合わせ 2,400円(税込)
お店オリジナルのタレには粘度があり、「鶏肉との絡みがよく時間が経ってもおいしくいただけます」(田上さん)。
エビベジの温野菜盛り合わせ 800円(税込)
「栃木県の海老原ファームさんの野菜「エビベジ」は、加熱をすると味が引き立つので、シンプルに塩で味わってもらいたいです」(田上さん)。
トロ茄子の焼き浸し 700円(税込)
料亭時代に培われた和食の腕前が光る一品。お出汁に一昼夜漬け込んだ茄子が日本酒とよく合います。
鶏もも肉の幽庵焼き 900円(税込)
「自宅で温め直しても、ふっくらと芳ばしく味わえるように、低温調理でしっとりとした食感に仕上げ、焼き目を付けて炭の香りを残しています」(田上さん)。
日本酒のテイクアウトはドリンクパックで1合からの量り売りのスタイル。
ガラス瓶に比べて軽く処分もしやすいと好評だそう。2種類をセレクトしてもらいました。
仙禽Amuser(アミューゼ) 1合 950円(税込)
「焼鳥×和酒 遊」限定のプライベートブランド。
毎年ご夫婦で酒蔵へ行き、酒造りの一部を蔵人と一緒に行っている思い入れのあるお酒。焼き鳥のタレとの相性がよく、肉料理とのペアリングをたのしめる。
クラシック仙禽 無垢 1合 850円(税込)
栃木県産の山田錦を使用した日本酒。温野菜や茄子の焼き浸しに。
コロナ禍以前は定期的に開催していた、蔵元をお店に招いたイベントも、春以降は自粛を余儀なくされましたが、オンラインで企画したところ、常連客や日本酒ファンからの反応もよく、定期的に開催しているそうです。
「ペアリングメニューを詰めたお重とお酒を、イベント当日の昼間にお客さんに店に取りに来てもらいお渡しして、夜に蔵元も含めオンラインで一斉に繋がってみんなでたのしむスタイルです。私は普段厨房にいてなかなかお客さんと話す機会がないので、一緒に飲みながら皆さんと話せるのはとても新鮮。お客さんも喜んでくれて、新しいスタイルのイベントだと思いますね」(田上さん)。
オンラインイベントの様子。
地元栃木県の生産者との繋がりも多く、業種を越えて意見交換をすることでお互いに高め合っていけると話す田上さん。
「熱意を持った人同士が繋がるのはとてもよい相乗効果が生まれます。東京にいながら、こうしてみんなで栃木県のよさを発信していくことができるのはうれしいですね」。
焼き鳥好きな日本酒ファンや栃木に縁のある方にぜひ足を運んで欲しいお店です。
「焼鳥×和酒 遊」
営業時間
月〜土 17:00〜23:00 (Lo.22:30)
日・祝 休
※テイクアウトは一品からでも可能。
https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130905/13162562/
洋食と燗酒のペアリングをテイクアウト「JOE’S MAN 2号」
「JOE’S MAN2号」の店主の髙崎丈さんは、かつて福島県双葉町で創作居酒屋を営んでいましたが、震災で帰還困難区域に指定されたため、以前勤務していた東京の飲食店へ再就職。その後2014年10月に、福島のお店と同じ店名に“2号”を加えて名付け、三元茶屋にオープンしました。
日本酒ファンの間で“おいしい燗酒が飲める名店”として親しまれ、鮮魚の刺身や魚串、お酒に合う一品料理を味わえるほか、日本酒とのペアリングをたのしめる「おまかせ料理コース」が人気のお店です
三軒茶屋駅から茶沢通りを進んだ先のビルの2階にある店舗。
店内には長いカウンター席。テーブル席や個室も。
コロナウイルスの感染拡大により営業自粛を余儀なくされた春、お店の営業スタイルを変化させ、テイクアウトをスタートさせるにあたり、髙崎さんは、かつて父が双葉町で30年以上に渡って営んでいた洋食店のメニューを取り入れることに決めました。
「『JOE’S MAN2号』の料理は、味付けや盛り付け、料理と燗酒のペアリングなど、エンタメ制とライブ感を大切にしているので、テイクアウトでの再現は難しいと思いました。生モノのリスクもあります。そこでふと、父の洋食店を再現してはどうかと思いついたんです」(髙崎さん)。
お店は震災により閉店し、父もすでに引退していますが、同じ「キッチンたかさき」の店名で、昼間はテイクアウトも可能な洋食店として営業を開始した髙崎さん。メニューには、地元の人たちに愛されていた料理の数々をオンリストしました。
父の時代の人気メニュー「たかさきランチ」 1,000円(税別)
ハンバーグと目光(メヒカリ)のフライにサラダと、ボリュームがあり人気。
ランチにつくライスは“赤米”入り。
ナポリタン 800円(税別)
冷めてもおいしく、懐かしさを感じる味わい。父のお店のレシピを再現しているそう。
旨すぎるヒレカツサンド 1,000円(税別)
メニュー名通り、「旨い!」味にファンも多い。
お店の看板でもある燗酒も、もちろんテイクアウトが可能。髙崎さんは、燗酒には冷酒とは別の魅力があると語ります。
「燗酒は体温に近い温度なので身体への負担も少ないですし、料理を引き立ててくれてペアリングが成立しやすい。温度帯の微妙な違いや燗のつけ方など、冷酒よりも世界観が広く、奥深い面白さがあります」(髙崎さん)。
金寶自然酒 オーク樽 160ml 1,000円(税抜)
お店で火入れを行う、「JOE’S MAN2号」でしか飲めない“クラフト燗”。「たかさきランチ」に合わせて。
伊根満開 古代米酒 160ml 1,280円(税抜)
古代米(紫黒米)を使用した甘酸っぱい口当たり。ナポリタンとの相性が抜群。
店内でお燗をしたものを徳利などの容器に移し替えて渡してくれますが、自宅で再度温め直して飲みたい方には、お燗の仕方や温度、使用するのに適したお猪口のサイズなどを細かくレクチャーしてくれるそう。
「食中酒として味わう燗酒には、世界に通用する素晴らしさがあると思います。そのよさを理解してたのしんでくれる人を一人でも増やしていきたいですね
」(高崎さん)。
お燗をする人によって味わいに違いが出るといわれる燗酒。
同じ内容でも噺家によって印象や面白さが違うのに例えて、「お燗は落語のようなもの」と髙崎さん。
「『ここでしか味わえない燗酒の味』といわれるようになるとうれしいですね」と語りますが、実際に髙崎さんがつけるお燗のファンの常連客が多くいます。
「お燗をつける時は、お酒をどう表現させるかを考えています。」と髙崎さん。
テイクアウトは、燗酒の極意を伝授してもらえるチャンスかもしれません。
キッチンたかさき
営業時間
12:00〜14:00 (日曜日のみ)
(店内飲食・テイクアウト 共に可能)
JOE’S MAN2号
営業時間 17:00〜24:00 (2020年9月現在)
水曜定休(ほかに休業日がある場合もあり。HPでご確認ください。)
https://www.joesman2go.com
※紹介した商品情報は記事執筆時点のものです。購入・サービス利用時に変更になっている場合がありますのでご注意ください。
ライタープロフィール
阿部ちあき
全日本ソムリエ連盟認定 ワインコーディネーター