「ビール」と「発泡酒」の違いとは?日本の酒税法での区別とあわせて解説!

「ビール」と「発泡酒」の違いとは?日本の酒税法での区別とあわせて解説!
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「ビール」と「発泡酒」の違いをご存知ですか?見た目や味が似ていても、日本の酒税法ではっきりと区別されています。ここでは原料の違いや、それぞれの酒税額の違い、さらに新ジャンルの「第3のビール」が生まれた背景についても解説します。

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「ビール」「発泡酒」「第3のビール」の違いは原材料と税金

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「ビール」と「発泡酒」の価格と味わいの違い、その決め手になるものが2つあります。それは「麦芽使用率」と「副原料の使用比率」。そしてそれにともなう「ビール」と「発泡酒」の酒税の違いから、販売価格にも違いが出てきます。ここでは、それぞれの内容について解説していきます。

麦芽使用率とは

ビール独特の味わいの決め手となる原材料は「麦芽」と「ホップ」。2つのうち「麦芽」については、日本の酒税法では「ビール」、「発泡酒」の定義として、それぞれの麦芽使用率が決まっています。「麦芽使用率(麦芽比率)」とは、水やホップ、酵母を除いた原材料の重量に対する麦芽の重量割合のこと。
日本では酒税法上、「麦芽使用率」が50%以上のものを「ビール」、50%未満のものや、50%以上であっても使用可能な副原料の範囲を超えたものは「発泡酒」に分類されます。

副原料の内容と使用率について

「麦芽使用率」と合わせて、酒税法で「ビール」と「発泡酒」の違いを定義するものに「副原料」があります。
ここでは、副原料に着目して「ビール」と「発泡酒」の違いをみてみましょう。

「ビール」「発泡酒」造りに於ける、麦芽、ホップ、水以外の副原料とはどのようなものを指すのでしょうか。日本ではビール造りに使用可能な副原料が酒税法で定められています。酒税法では、副原料の使用量が麦芽の重量の5%を超えないものを「ビール」とし、それ以上使用した場合や、酒税法で認められていない副原料を使用した場合は「発泡酒」に分類されます。

<ビール造りに使用が認められたおもな副原料>
◇麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でん粉、糖類または財務省令で定める苦味料もしくは着色料
◇果実(果実を乾燥させたもの・煮詰めたもの・濃縮させた果汁を含む)、またはコリアンダー、コリアンダーの種、その他の財務省令で定める香味料
◇ビールに香りや味を付けるために使用するもの
 ◆香辛料(こしょう、シナモン、クローブ、山椒など)
 ◆ハーブ(カモミール、セージ、バジル、レモングラスなど)
 ◆野菜(さつまいも、かぼちゃなど)
 ◆そば、ごま
 ◆はちみつその他の含糖質物、食塩、味噌
 ◆花、茶、コーヒー、ココアもしくはこれらの調整品
 ◆牡蠣、昆布、わかめ、かつおぶし

副原料を使って香り付けをしたり、すっきりした味わいを醸し出す効果や、副原料によっては、それに相対する複雑性、特徴を持たせることもでき、バラエティに富んだ味わいを造りだすことが可能になります。さらに、副原料に地域の特産品などを使用して、街おこしや地域の活性化につなげている醸造所も、国内に増えてきています。

日本の酒税法上の「ビール」とは

「ビールとは何か」をかんたんに説明すれば、「麦芽・ホップ・水に酵母を加えて発酵させたお酒」となります。とはいえ、厳密にどんなお酒を「ビール」とするかは、各国の法律で厳密に規定されています。

一例として、2018年4月の酒税法改正で再定義された、日本における酒税法上の「ビール」の定義の概要を見ていきましょう。

◇麦芽、ホップ、水を原料として発酵させたもの
◇麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの
◇上記2つの酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの
*その原料中麦芽の重量が、ホップ及び水以外の原料の重量の合計の50%以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の5%を超えないものに限る。
◇アルコール分が20度未満のもの

ここでいう政令で定める物品とは、いわゆる「副原料」であり、これについては前項で挙げたように規定されています。
これらの条件から外れるものは、見た目や味わいがビールに近くても、酒税法上は「ビール以外のお酒」ということになります。

酒税法上の「発泡酒」とは

「発泡酒」も、ビールと同様に麦芽を使って発酵させたお酒ですが、現在の酒税法では、ビールとは異なるアルコール飲料として定められています。

日本における酒税法上の「発泡酒」の使用原料と麦芽の使用割合は、以下のとおりです。

◇麦芽または麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有するもの
◇麦芽使用率が50%未満のもの
◇麦芽使用率が50%以上であっても、規定量を超えて副原料を使用したもの
◇麦芽使用率が50%以上であっても、ビール製造に使用可能な原料以外を使用したもの
◇アルコール分が20度未満のもの

「発泡酒」には、「ビール」のように麦芽使用率や副原料の使用量に制限はありません。副原料の内容も自由です。そのため、さまざまな見た目や香り、味わいを持つバリエーションに富んだお酒を造ることができるのが特徴です。

酒税法上の「第3のビール」とは

日本には、「ビール」や「発泡酒」のほかにも、「第3のビール」(新ジャンル)と呼ばれるビールテイスト飲料があります。「第3のビール」は造語で、「ビール」「発泡酒」に次ぐ“3番目のビールテイストを持つお酒”という意味。法律上は「その他の発泡性酒類」となります。

「その他の発泡性酒類」は、現在の酒税法上では、おもに以下のような要件が定められています。

◇糖類、ホップ、水および麦芽以外のもの(穀物など政令で定めるもの)を原料として発酵させた酒類でエキス分が2度以上のもの
◇政令で定める発泡酒に、政令で定める麦由来のスピリッツを加えた酒類でエキス分が2度以上のもの

なお、2023年10月に酒税法が改正され、「第3のビール」の酒税額が上がり、麦芽使用率25%未満の「発泡酒」に統合することになります。

そもそも、なぜ発泡酒と新ジャンルの人気がでたのか?

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「ビール」の独特の苦みとコク、そしてビールの味わいに近い「発泡酒」と「第3のビール」。これらはどのような経緯で生まれ、今日の人気となったのでしょうか。その背景と動向をみていきます。

発泡酒や新ジャンルの誕生と人気の背景

さまざまなお酒のなかでも、とくに日本人に愛飲されている「ビール」ですが、課税率の高いことでも有名。日本ではワインなどに比べてビールの税率が突出して高いのです。
1990年代初頭にビールの低価格競争が始まったのち、ビールに課せられる高い酒税を回避して、少しでも安い価格を実現しようと、1994年に低税率の発泡酒「サントリーホップス<生>」が生まれ、注目を集めました。当時、ビールの半額程度の値段で飲める「発泡酒」は家計の救世主として人気を博し、他社も続々と追随しました。

しかし、「発泡酒」の人気が高まると、国税庁から狙い撃ちの対象となります。税率が10年で2度も改訂された影響で価格が上昇していき、そこで「発泡酒」の税率アップに対抗し、販売価格を安くするために、さらに低い税率が適用される商品が開発されました。こうして2003年に新たに生まれたのが「第3のビール」や「新ジャンル」と呼ばれる分類なのです。
元祖は「サッポロ ドラフトワン」。こちらも低価格から大人気となったことで他社も追随し、おもに家庭用アルコール飲料として大きなマーケットを占めるようになりました。

2018年の法改正で「発泡酒」が「ビール」に

2018年の酒税法改正により、「ビール」に使用できる副原料が多く認められるようになりました。

たとえば、ベルギー発祥のビアスタイル(ビールの種類)の「ベルジャン・ホワイトエール」は、原料にオレンジピールやコリアンダーが使われています。ベルギーを象徴する立派な“ビール”であるにもかかわらず、日本では、2018年までは規定外の原料を使用しているとして「発泡酒」とされていたのです。「ベルジャン・ホワイトエール」の人気の銘柄「ヒューガルデン・ホワイト」も「発泡酒」の扱いでした。しかし、2018年の法改正によりビールの副原料の品目が拡大され、その規定内に収まった「ヒューガルデン・ホワイト」は正式に日本国内で「ビール」として認められるようになったのです。

また、個性的なクラフトビールとして知られる「常陸野ネストビール ホワイトエール」(木内酒造)も、2018年の法改正によって「発泡酒」から「ビール」に変更された銘柄です。副原料にオレンジピール、コリアンダー、ナツメグなどを使い、スパイシーな味わいでビール好きの人気を集めていますが、これらの副原料もビールの副原料に仲間入りしたというわけです。

じつは、世界では「ビール」として発売されているのに、日本では法律上ビールの規定から外れて「発泡酒」とされているお酒が数多くあります。

「ビール」と「発泡酒」の味わいはどう違う?

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「発泡酒」や「第3のビール」は「ビールの廉価版」というイメージを持つ人もいますが、けっしてそうではありません。安さの秘密は原料の安さではなく、おもに税率の違い。むしろ、ビールを超えるような香りや味を追求している製品も多くあり、「安かろう、悪かろう」の世界ではないのです。それぞれの味わいの違いを知っておきましょう。

「ビール」の魅力は原料由来の味わい

「ビール」の魅力は、なんといっても、法律で原材料の50%以上の使用が決められている「麦芽」の量。麦芽由来の旨味とコクや、ホップ由来の香りや苦味こそがビールの味わいの決め手。口のなかで広がる旨味やコク、苦みや香りのバランスは、ビールならではの醍醐味です。

近年、人気が高いプレミアムビールは、製造各社がこだわり抜いて厳選した原材料と、卓越した醸造方法で造るビールです。価格は、通常ラインよりは高くなりますが、その秀逸な味わいは、特別な日や自分へのご褒美、贈り物として人気を集めています。

「発泡酒」は軽やかな味わい

前述したように、発泡酒は大きく分けて2つに分類されます。
一つは、麦芽使用率50%以上でありながら、副原料の使用範囲が規定以外のもの
二つ目は、麦芽使用率が50%未満のもの

麦芽使用率が50%以上の発泡酒は、広い意味で、ビールと同じような味わいを感じることができると思います。副原料を規定量以上使用したり、規定以外の副原料を使用している場合もあり、クラフトビールの製造で多く見られます。

一方、麦芽使用率50%以下の発泡酒は、近年、「糖質〇〇%オフ」や「プリン体ゼロ」「人口甘味料ゼロ」など、健康に視点を置いた、機能性アルコール飲料として人気があります。
“機能性を持たせても、味わいは本格的に“と各社しのぎを削っています。

「第3のビール」はビール+αの味わい

これまで、ビールや発泡酒の麦芽の使用率のついてみてきましたが、「第3のビール」では、
麦芽を一切使用しないものもあります。

このような「第3のビール」は、麦芽の替わりにエンドウたんぱくや大豆たんぱくなどを使ってビールに近い色や香り、味わいをつくり出しています。

2022年現在の、麦芽を使用しない代表的な銘柄は、サッポロビールの「ドラフトワン」、キリンビールの「のどごし生」などがあります。


また、「第3のビール」には、発泡酒に麦由来のスピリッツをくわえた製品もあります。ベースが発泡酒なので、よりビールの味わいに近く人気があります。

将来は「ビール」と「発泡酒」が同じ値段に!?

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「ビールは高いので、より安価な発泡酒や第3のビールにする」という、家計の事情から選択する人が増え、今日人気となった「発泡酒」や「第3のビール」。その価格の違いは原材料よりも税率の違いによるものでしたが、今後予定されている酒税法の改正により両者の酒税額が、2026年10月に統一される予定です。

「発泡酒」は「ビール」より安い税率で製造できる

「ビール」と「発泡酒」には、材料や製法とは別に、大きな違いがあります。それは、お酒に掛けられる税金。日本では、ほかのお酒と比べて「ビール」に課せられる税率が高いのです。

1990年代、ビールの低価格競争が始まると、ビールの高い酒税を避けて少しでも安い価格を実現するため、メーカーは麦芽の比率をビールの規定よりも下げた“新ビール”を開発しました。当時の法律で規定された麦芽使用率を満たしていなかったので、それらを「発泡酒」として「ビール」と区分したわけです。

消費者にとっては「麦芽の量が少し減っただけで味わいはビールのまま、ビールよりずっと安い価格で飲める」ということで、発泡酒はおもに家庭での日常的なアルコール飲料として人気となりました。

2003年の酒税法改正で「発泡酒」の税率が引き上げられると、今度はその規定外で低税率の「第3のビール」が市場に出回り、支持されるように。景気低迷下から、一般家庭の選択は価格の安いほうに流れていきました。

しかし、酒税法の改定により、ビールと発泡酒の課税比率が近づく傾向にあります。つまり「ビールの価格が下がり、発泡酒の価格が上がる」ことになっていき、両者の価格差が近づいていきます。

酒税法はこれからも段階的に改正

ビール、発泡酒、第3のビールに関連する酒税は、今後、2023年10月、2026年10月と段階的に改正され、2026年10月には、ビール、発泡酒、第3のビールの酒税額が一本化されます。

2020年9月時点の、350ミリリットルあたりの酒税額は次のとおりでした。

◇ビール:77円
◇発泡酒(麦芽使用率50%以上):77円
◇発泡酒(麦芽使用率25%以上50%未満):約62円
◇発泡酒(麦芽使用率25%未満):約47円
◇第3のビール:28円

これが2020年10月に改定され、現在は以下のようになっています。

◇ビール:70円
◇発泡酒(麦芽使用率50%以上):70円
◇発泡酒(麦芽使用率25%以上50%未満):約58円
◇発泡酒(麦芽使用率25%未満):約47円 ※変更なし
◇第3のビール:約38円

さらに2023年10月には、以下のように変更されます。

◇ビール:約63円
◇発泡酒(麦芽使用率50%以上):約63円
◇発泡酒(麦芽使用率25%以上50%未満):約54円
◇発泡酒(麦芽使用率25%未満):約47円 ※変更なし
※第3のビールは発泡酒(麦芽使用率25%未満)に統合

そして、2026年10月には、いずれも350ミリリットルあたり約54円に一本化されます。

もともと「発泡酒」や「第3のビール」は価格の安さが特徴でしたが、将来的に「ビール」との差はなくなるわけです。今後「ビール」と「発泡酒」「第3のビール」の間では、価格ではなく原料や製法の違い、健康系の機能性、さらには飲用シーンでの味わいの選択などの場面で、選ばれるようになるのではないでしょうか。


酒税法の改正によって新たに多くの副原料の使用が認められたことで、新たな魅力を持つ“ビール”が登場するかもしれません。また、今後、段階的に税率が変更されていくことで、ビール・シーンも大きく変化していきそうです。どのように変わっていくか注目です。

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