美しく、軽やかに。蜂蜜のお酒“ミード”がテーブルをたのしくする理由

ミードはもともとは蜂蜜、水、酵母からできるシンプルなお酒。古くからある伝統的なミードから、今のお酒のたのしみ方、食トレンド、ライフスタイルにあう新しいミードが登場しています。リオハ、鹿児島から2つのアイテムを紹介します。
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ワインより古くて、ワインより新しい?はちみつのお酒「ミード」

ミードを味わうと蜂蜜にもテロワールがあると感じられる
実はミードの起源は古く、1万年前から存在したとされているようです。そのきっかけは偶然。ハチの巣に雨水がたまっていて、自然の恵みか、雨水によって蜂蜜の糖度が下がり自然の酵母により発酵。それを、喉を涸らした狩人が飲んだところ、美味しいお酒になっていたのだとか。
1万年前というエピソードですから、嘘か真か……という感じもしますが、いずれにしても古くから人の喉と心を癒していた酒といえそうです。ポーランドやリトアニアなどでは、古くからアルコール度数50%に迫るようなフレーバードウォッカともいうべきミードが親しまれているなど、中近東、アフリカ、南米ではわりと伝統的に楽しまれています。
私自身、今まで意識した酒ではなかったのですが、あるミードと出会って、強く興味を持ち始めました。ひとつめは「モンカルビージョ ミーダリー」の「イドロミエル デ バッハ モンターニャ 2019」と同「セミドゥルセ 2019」。リオハのミシュラン1つ星レストラン「Venta Moncalvillo」のソムリエとシェフの兄弟と農学者、ワインメーカー、養蜂家が“世界最高の食事にあうミードを作ろう”とスタートしたプロジェクトから生まれました。
スペイン・リオハで生まれた新たなミード

仕掛け人はこの2人。リオハのレストランを経営するソムリエとシェフの兄弟
「イドロミエル デ バッハ モンターニャ」はリオハの標高600-800 mの様々な場所に設置された巣箱から採取された蜂蜜を使用。ステンレスタンクで14〜18℃の低温長時間醗酵。フレンチオークで澱とともにバトナージュをしながら 9〜12ヶ月樽熟成。「セミドゥルセ」はボトリング前に同じ蜂蜜を添加し、さらに12ヶ月以上瓶内で寝かせた後に出荷となります。

フレンチオーク樽で澱とともに熟成
ともに、健やかそうな花蜜を感じ、柑橘類や、地中海のハーブであるタイムのアロマとローズマリーの酸。そこにほのかにアーモンドや白や黄色の花の香りから、フルーティーさや心地よい苦味も現れてきます。ちなみにローズマリー、タイム、アーモンドなどの風味は、それぞれの巣箱で生まれた蜂蜜の味わいがきれいに反映されています。

ミードとペアリングする料理は
味わっているとペアリングのイメージがどんどん膨らんでいきます。「イドロミエル デ バッハ モンターニャ」は辛口シェリーを感じさせ、脂をすっと切りながらほろ苦さや甘さとともに余韻へ。春野菜の天ぷら、きす、あなご、江戸前の天ぷらが浮かびます。わさびとも合わせてみたい。軽やかなランチタイム、また夕方キックオフの一杯としても楽しませてくれるでしょう。和柑橘とも相性が良さそうです。
一方「セミドゥルセ」は、素朴でも華やか、洗練されながら濃密。もう一度蜂蜜を加えるということで甘味はありますがべたついたようなものではなく、むしろ酸やハーブ感を強調してくれます。オフドライのリースリングやシャンパーニュのドゥミ・セックを感じさせます。白身魚やポークの西京漬け焼き、甘酸っぱさと辛みが調和したタイ料理、青パパイヤのサラダといったエキゾチックな料理も好相性です。
国産ミードも本格的に登場

鹿児島で生まれた“ジャパニーズミード”の新しいスタイル「ミードル」
もうひとつの出会いが鹿児島市の酒造メーカー「ハニーボーイ」が手掛ける「ミードル」。20代のメンバーが手掛ける5つの蜂蜜から生まれたアイテムは、それぞれの蜂蜜の素材、場所のキャラクターが静かに、でも生き生きと伝わってきます。
「アカシア」(秋田県産)は、さわやかな酸味、多少のほろ苦さが心地よく、ワインで言えばマスカット・オブ・アレキサンドリアにソーヴィニヨン・ブランの爽快感。ミモザサラダ、レア気味に火を入れたエビ、カニを酢、ドレッシングでシンプルに食すのも面白そう。30代~50代、仕事を持つ大人の気の置けない女性同士、久々のおしゃべりがはずむランチに。
「リンデン」(北海道産)は、清涼感と濃密さのバランスが良く、他のお酒で言えば薬草酒系のニュアンス。タンドリーチキン、白身魚のスパイス系のグリル、フムスなどインドから中近東。大葉や赤しそ、ミョウガなどを使った夏の酒場や小料理屋で供されるような苦みと清涼感のある前菜を。一人旅にこの一杯と地元のエキゾチックな一皿。

“ジャパニーズミード”「ミードル」
「モチノキ」(愛知県産)はウッディで心地よい苦み。ライチの食感と風味。合わせたいのは、西京焼き、錦糸卵や甘く煮たシイタケなどがメインの海鮮系ではないバラチラシ。ホタテを使ったあっさり味の中華、ベトナム料理の酸味、甘み、少しの辛み。冷しゃぶ、ソースをかけないトンカツも。家族や、たのしい会話ができる友人グループ…とイメージは広がります。
「レンゲ」(鹿児島県産)の第一印象は、蜂蜜そのものの魅力。リゾートの朝ごはんが浮かびます。バタートースト、パンケーキ、そこにシナモン。アップルパイや甘じょっぱいソーセージにハッシュドポテト。ハニーマスタードチキン、クルミなどナッツを豊富に入れたサラダにも。
「リンゴ」(青森県産)は、時間の経過とともに。熟したリンゴジャムにハーブを散らしたタルトのアロマと味わい。ほのかにサワークリーム感。良質なバターを使ったパウンドケーキや食パンとの組み合わせも意外といけそう。ドイツの貴腐ワイン、トロッケンベーレンアウスレーゼをより軽く味わう感覚。仲の良い大人のカップルのデザートやワインバーのカウンターで“もう少し”の時間を。
ミードの味わい方・楽しみ方

料理人が手掛けたミード。食を軸にお酒を見ると、また違う方向性や多様性も楽しめます
紹介したミードの共通の魅力ですが、まずは、素材の蜂蜜の味わいが明確に表れること。ミツバチが摂る植物のアロマや風味がそのまま酒に反映される。これがとても面白いんです。まさにその地のテロワールをミツバチと蜂蜜を通じて軽やかに感じられます。
軽やかな味わいで、多様な食との相性の良さがあるミードですから、日本の多彩な食文化とも相性がいいのは必然でしょう。素材を活かし味わう和食から、世界中のエスニックな料理までを取り込む日本のテーブルにとても汎用性が高いお酒だと感じます。日本だけではありません。ひとつめのミードがリオハ生まれというのは重要。
食志向のライト化、ヘルシー化にともない、従来のリオハ産赤ワインに代表される、骨格、味わいの重厚さ、酒に強くないと感じられない複雑さなどをもつワインでは寄り添えないものが増えてきました。若い世代やライトにお酒をたのしむ層であればなおさらです。旧来のブランドや常識にとらわれず、自分にあったものでいいというマインドは酒だけにとどまるものではありません。
現在、リオハも新しいエレガンスさをもったワインがどんどん生まれていて人気を博しています。軽やかで、食と寄り添い、繊細でありながらゆったりと楽しめるミードというワインの登場は、今のリオハというワイン産地には必然だったのでしょう。世界に名を馳せるスペインのファインダイニングが標榜する、先進性、多様性のある料理にはうってつけのアイテムです。
今回紹介したミードは、伝統的なハードなミード、シンプルなミードとは別のもの。現在の美食の在り方、お酒を楽しむライフスタイルにちょうどよいお酒として面白い存在になりそうです。
ライタープロフィール
岩瀬大二
