カルトワインとは? カルト的な人気を誇るアメリカのナパ・ヴァレー産高級ワインについて紹介
カルトワインとは、ワイン評論家の評価が高く、少量生産で極めて入手困難な高級ワインの総称です。高額なものでは数十万円、あるいはそれ以上の値がつくものもあります。今回はカルトワインの概要や、言葉の由来、おもなブランドの種類、味わいの傾向などについて紹介します。
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カルトワインはカルト的な人気を誇る高級ワインです。カルトワインの産地として熱視線を浴びる、ナパ・ヴァレー産のカルトワインのブランドも紹介します。
カルトワインはアメリカ・カリフォルニア州ナパ・ヴァレー(ナパ・バレー)産などの希少で高品質な高級ワイン
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熱心なワイン愛好家に支持されるカルトワイン。一体どんなワインがカルトワインにあたるのか、定義や由来などを確認します。
カルトワインの定義は?
カルトワインに明確な定義はありませんが、一般的にはアメリカのカリフォルニア州ナパ・ヴァレーなどのワイン生産者が造る、高品質で高級なワインを指します。ただ、フランスやイタリアなどのワインをカルトワインに含める場合もあり、基準は曖昧です。
また、単に高品質で高級なだけではなく、生産量1万本以下や1アイテム数百本など驚くほど少量生産で、希少価値が高いのもカルトワインの特徴。たとえば、「カリスマ的人気のワイン生産者が、特別に手間暇かけて造った少量生産のワイン」となれば、世界中のワイン愛好家が手に入れたいと思うのは自然なことで、なかにはコレクションや投資目的のために購入する人もいるようです。
とはいえ、「カルトワイン」と呼ばれるワインは、お金を出せば誰でも購入できるわけではありません。販売ルートが限られていて、メーリングリストに登録されているごく一部の顧客だけで完売するワインや、「セラードア」というワイナリー併設の試飲直売所でしか買えないものもあり、一般のワインファンが店頭で入手するのはほぼ不可能です。
また、運よくオークションサイトなどでお目当てのワインを見かけたとしても、プレミアム価格となっていて、なかなか手が出せないかもしれません。
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「カルトワイン」という言葉の由来は? きっかけは1976年の「パリスの審判」
カルトワインの「カルト(cult)」は、英語で「崇拝」や「熱狂」などを意味する言葉で、ラテン語の「cultus」を語源としています。カルトワインは、世界中のワイン愛好家に崇拝され、熱狂的に支持される、まさにカルト的な人気を誇るワインの称号なのです。
「カルトワイン」と呼ばれるワインが生まれるきっかけとなったのは、1976年にフランスで開催され、現在もワイン版「パリスの審判」として語り継がれる試飲会であるといわれています。この試飲会の目的は、カリフォルニアワインをフランスの人に宣伝するためのものでした。
フランスでも随一のワインの専門家9名が、フランスの一流ワインとカリフォルニアワインをブラインドテイスティングで飲み比べて各ワインに点数をつけるという会で、フランスが勝つはずだと思われていました。しかし、蓋を開けてみると大方の予想を裏切り、白ワイン部門でも赤ワイン部門でもカリフォルニアワインがフランスワインの得点を上回って1位に。また10位以内にランクした過半数が、カリフォルニアワインでした。
当時は「ワインといえばフランス」という時代で、フランス以外の国や地域で高品質なワインを造ることはできないと考えられていたため、専門家があ然とするほど驚きの結果だったようです。
このとき高く評価された、「スタッグス・リープ(スタグス・リープ)」「マヤカマス」「クロ・デュ・バル」などのブランドは大きく注目され、カルトワインとして引く手あまたの存在になっていきました。
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カルトワインは高額! ヴィンテージによっても相場が変わる
カルトワインは高額なワインとしても有名です。ワイン1本750ミリリットルあたり、安くても5万円くらいから、高いものだと30万~50万円、あるいはそれをはるかに超える高額で取り引きされるものもあります。
また、ヴィンテージ(ブドウの収穫年)によっても相場が変わり、ブドウの出来がよい当たり年のワインや、バックヴィンテージ(古いヴィンテージ)のワインなどは、さらに価格が上がります。
カルトワインを語るうえで外せない「パーカーポイント」とは
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ワインの評価法のひとつパーカーポイントについて、採点方法やワインに与える影響などについてみていきます。
パーカーポイントは世界的なワイン評論家がつけるワインの点数
パーカーポイントとは、「神の舌を持つ男」と讃えられた世界的なワイン評論家、ロバート・パーカー(ロバート・M・パーカーJr.)氏が考案したワインの評価法をもとに、ワインにつけられた点数のこと。100点満点方式でワインを公平に採点しているため、初心者でも評価がわかりやすいのが特徴です。
採点方法は、基礎点50点に、ワインの色と外観5点、香り(アロマ・ブーケ)15点、味わい(風味・後味)20点、全体の質や熟成の将来性10点で評価した点数を加算していきます。さらに、評価されたワインは総得点によって5ランクに分類され、パーカーポイント100~96点を獲得したワインは格別(Extraordinary)なワインとして、大きく注目されることになります。
点数やレビューは、パーカー氏が1987年に創刊した『The Baltimore-Washington Wine Advocate(ザ・ボルチモア・ワシントン・ワイン・アドヴォケイト)』というワイン評価誌で発表されていましたが、のちに『The Wine Advocate(ザ・ワイン・アドヴォケイト)』に改名され、現在はオンライン版のみとなっています。
この媒体の特筆すべき点は、一切広告なしで独立性を保っていることです。パーカー氏は自費でワインを購入し、卓越したテイスティング能力で全ワインを忖度なく評価していましたが、パーカー氏が一線を退き、フランスのミシュランガイドが買収したあとも、その方針は受け継がれています。
The Wine Advocate(ザ・ワイン・アドヴォケイト)
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伝説的なシンデレラワイン「スクリーミング・イーグル」
パーカー氏が高得点をつけたことで一躍有名になった、「シンデレラワイン」と呼ばれるワインがあります。そのなかでも伝説的なカルトワインとして愛好家を魅了しているのが、「スクリーミング・イーグル」です。
「スクリーミング・イーグル」は、不動産業で成功したジーン・フィリップス女史が1986年にナパ・ヴァレーのオークヴィルに設立したワイナリーで誕生させたブランド。1992年にリリースしたファーストヴィンテージでいきなりパーカーポイント99点を獲得し、立ち上げから10年も経たずにワイン界のスターダムにのし上がりました。
以後も、幾度となくパーフェクトの100点を獲得して不動の地位を築き、今もカルトワインの最高峰として君臨しています。
「スクリーミング・イーグル」のほかにも、「ダナ・エステーツ」「ルイス・セラーズ」なども、パーカーポイントによってシンデレラワインとなったブランドとして挙げられます。
「スクリーミング・イーグル」は別格の存在ではありますが、パーカー氏の評価は、無名のワインにスポットライトをあてて、価格や人気、ステータスを左右するほど影響力が大きかったことは明らかです。
「カルトワイン」と呼ばれるブランドの種類と味わいの傾向
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ナパ・ヴァレー産のカルトワインと呼ばれるワインのなかでもチェックしておきたいブランド名と、カルトワインの味わいの傾向についてみていきます。
カルトワインのおもな種類
カルトワインのなかでも、以下の5ブランドは、「5大カルトワイン」と呼ばれて圧倒的な人気を誇っています。
<5大カルトワイン>
◇スクリーミング・イーグル
◇ハーラン・エステート
◇グレース・ファミリー
◇ブライアント・ファミリー
◇マヤ(ダラ・ヴァレ)
また、次世代のカルトワインも台頭してきていて、以下のようなブランドがワイン評論家の高評価を得て注目を集めています。
<次世代カルトワインの例>
◇コルギン
◇シュレーダー
◇シネクアノン
◇スケアクロウ
◇ハンドレッド・エーカー
など
当然ながら、いずれも入手困難となっています。
ほかにも、「オーパスワン」をはじめ、「インシグニア」「ピム・レイ(テスロン・エステート)」「ドミナス」「イングルヌック・ルビコン・ラザフォード・ナパ・ヴァレー」、日本人オーナーの「ケンゾーエステイト」など、クオリティーの高いナパ・ヴァレーのワインが世界中の愛好家を魅了しています。
なお、5大カルトワインや次世代のカルトワインに挙げたブランドがリリースするワインのように、すべてが目を見張るような高額なわけではありません。「インシグニア」や「ドミナス」などには数万円程度の比較的入手しやすいものもあるので、機会があれば世界が注目するナパ・ヴァレー産の高品質ワインを味わってみるのもよさそうですね。
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カルトワインの味わいの傾向
世界的なワイン評論家であるパーカー氏が現役で活躍していた時代に、カルトワインとしてもてはやされたワインは、パーカーポイント高得点のワインが目立っていました。
当時、高得点を獲得しやすかったワインの特徴は、パーカー氏が好む濃い味わいを持つもの。とくに赤ワインは、凝縮された濃厚な味わいのものが高く評価されやすい傾向にありました。パーカー氏が絶賛するワインが高価格になるという風潮があり、一時期は生産者もパーカー氏の好みに合わせる向きがあったようです。
しかし、近年はその傾向も薄れています。理由としては、世の中の好みがより多様化していて、ナパ・ヴァレー産のカルトワインのみならずボルドーのトップシャトーも味わいの傾向が変化していることや、パーカー氏引退後は複数の評論家の意見を集約して評価するスタイルになり、高得点を取りやすいワインのタイプが変化していることなどが挙げられます。
カルトワインの味わいの傾向は一概にはいえず、時代とともに移ろいゆくものと捉えておくとよいかもしれません。
世界中のワイン愛好家が熱狂するトップクラスのカルトワインは、希少性と付加価値が高く、高額で極めて入手困難です。とはいえ、比較的入手しやすいカルトワインもあるので、特別な日などにぜひ堪能してみたいものですね。