「ヨード香」は、ウイスキーに独特の個性をもたらす海からの贈り物【ウイスキー用語集】
「ヨード香」というフレーズを耳にしたことはありませんか? ヨード香はウイスキーを特徴づける香りのひとつですが、具体的にどのような香りのことを指すのでしょうか。ここでは、ウイスキーに独特の個性をもたらすヨード香について紹介します。
- 更新日:
ヨード香とはどんな香りのこと?
Carol Tyers/ Shutterstock.com
ウイスキーのヨード香とは?
ヨード香とは、ウイスキーの香りを表現する用語で、「ヨーディな香り」のように「ヨーディ」といい換えられることもあります。
ヨード香の「ヨード」とは、「ヨウ素(Iodine)」のこと。ミネラルの一種であるヨウ素は、昆布やわかめ、のりなどの海藻に豊富に含まれています。そのため、ウイスキーから香るヨード香は、よく海藻の香りや磯の香り、海の香り、潮の香りなどにたとえられます。
また、海藻由来のヨードは薬品類にも使われています。そのため、ヨウ素液やクレゾール消毒液のような薬品香がする場合も、「ヨード香」といいます。
ヨード香のするウイスキーはスコッチに多い
ヨード香が特徴のウイスキーは、スコッチの銘柄に多く見られます。スコッチウイスキーを飲んでいて、薬品や海藻のような香りを感じたことがある人もいるのではないでしょうか。
スコッチの生産地であるスコットランドのなかでも、西岸に点在するヘブリディーズ諸島で造られるスコッチには、ユニークな個性を持つ銘柄が多く見られます。ヨード香もそのひとつ。とくにアイラ島のスコッチには、ヨード香が印象的な銘柄が多数揃っていて、独特の個性に魅了されるファンが世界中にいるといわれています。
強いヨード香が特徴のアイラ島のスコッチ
アイラ島のスコッチの大きな特徴は、スモーキーでヨーディな風味。アイラモルトのほとんどに独特のヨード香が含まれていることから、香りを表現するときにその特徴を示して、「アイラっぽい」ということもあります。
アイラっぽい銘柄のなかでも「ラフロイグ」や「ラガヴーリン」は、とくにヨード香が強く感じられるウイスキーとして有名です。薬品を想わせるヨーディな香りを苦手に感じる人もいますが、ウイスキーを飲みこなしていくと、最終的にこの香りの魅力にはまる愛好家が多いとか。ぜひ、味わってみたいものです。
スコッチウイスキーのヨード香はどのように育まれる?
Alex Stemmer / Shutterstock.com
スコッチのヨード香は、ピートから生まれる
スコッチから香るヨード香には、ピートが関係しています。ピートとは、ヒースなどの植物が長い年月を重ねて積もり、炭化して固まった泥炭のこと。スコットランド北部にはこのピートの大地が広がっていて、古くからスコッチ造りに用いられてきました。
ピートは、スコッチの製造工程のうち「製麦(モルティング)」と呼ばれる作業に必要な燃料です。一般的な製麦工程では、スコッチの原料であるモルト(大麦麦芽)を造るため、ピートを焚いてモルトを乾燥させ、発芽を止める作業を行います。このときヨードを含むピートを使うと、ヨード香をまとったモルトが出来上がるのです。当然、ヨードの香りのするモルトを原料として蒸溜すれば、ヨーディなニュアンスのスコッチが生まれることになります。
アイラ島のピートにヨードが豊富に含まれる理由
スコットランドのなかでも、アイラ島のピートにはヨードが豊富に含まれているといわれています。なぜなら、冬になると大西洋から強風が吹き付け、島に海藻などの海産物をたくさん運んでくるからです。また、湿原が広がる島にはほとんど木が生えていないため、大地は常に海風にさらされた状態にあります。
このアイラ島特有の気候や風土が影響して、島を覆うヒースの湿原に海藻などが混じり、海藻由来のヨードをたっぷり含んだ潮っぽいピートが育まれるのです。
ヨード香をもっと深く知ろう
Food Impressions / Shutterstock.com
ヨード香と、ヨード香以外の香りとの違い
ウイスキーの香りの表現には、ヨード香以外にもさまざまなものがあります。前述のとおり、ヨード香は薬品や海藻のような香りといわれますが、ほかにはどんな香りがあるのか、代表的なものを見ていきましょう。
◇スモーク香
燻製のような香ばしい薫香
◇ピート香
薬品香や芳しい燻製香が混ざったような香り
◇フラワー香
ピートに含まれるヘザー(植物)由来の香り
◇フルーツ香
発酵時に生まれる香り
◇穀物香
原料由来の香り
◇木材香
熟成樽由来の香り
このうち、スモーク香(スモーキーな香り)とピート香(ピーティな香り)は、ヨード香と同様にスコッチに特徴的な香りといわれています。
ブレンダーはヨード香を別の言葉で表現することもある
ヨード香は、じつはスモーキーな香りの一種です。世界のブレンダーの間では、スモーキーな香りを以下の3つに分類して区別しています。
◇ピーティ
燻製のような芳しくよい香り
◇メディシナル
ヨード由来の医薬品的な香り
◇ハーシュ
いがらっぽく、あまりよくない香り
スモーキーさのあるウイスキーのなかでも、薬品のようなヨード香が強く感じられるウイスキーは、メディシナルと評されます。
また、ブレンダーなどがスコッチの個性を表現するときに使われる図表に、「ペントランド・フレーバー・ホイール」というものがあります。これによると、「フェノール(消毒剤にも使われる化学物質)様」という香りのグループに、「薬品様」「ピート様」「燻製様」が分類されています。たとえば、アイラ島の「ラフロイグ」などのヨード香は、薬品様に当たるようです。
ヨード香という表現はウイスキー以外のお酒にも使われる
ヨード香という言葉は、ワインや日本酒のテイスティングの際にも使われます。たとえば、ソムリエが白ワインのミネラル香で海のニュアンスを感じたときに、「ヨード」という言葉を用いることがあります。また赤ワインでは、稀に化学物質のような香りを表現するときに使われます。ちなみに、このヨード香を含むワインは、高級なワインに多いそう。
また日本酒では、香りの表現のほか、料理とのマッチングの際にも使われます。熟成タイプの「熟酒」には、ヨード香を感じる海藻や貝類などの料理が合うといわれています。
スコッチから海藻や薬品を想わせる香りを感じたら、それがヨード香かもしれません。香りの感じ方は人それぞれですが、アイラモルトを飲むときに、世界中の愛好家を魅了するヨード香を探してみてはいかがでしょう。