ワイン造りで加糖する「補糖(シャプタリザシオン)」の目的は?
ワインの発酵過程で加糖することを、ワイン用語で「補糖(シャプタリザシオン)」と言います。加糖とは糖分を加えて甘くすることと思われがちですが、ワインで行われる加糖には、ほかの目的がありあります。ワインへの加糖について解説しましょう。
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ワインに加糖するのは、甘くするためじゃない?
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ワインへの加糖は「補糖(シャプタリザシオン)」と呼ばれる
ワインの発酵工程で加糖することは、ワイン用語で「補糖(シャプタリザシオン)」呼ばれます。
一般的に、加糖には「甘味を増すために砂糖を加える」とのイメージがありますが、ワインへの加糖はアルコール度数を高めることが目的です。ワインのアルコールは、酵母が糖分をアルコール発酵(アルコールと炭酸ガスに分解)することで生成されます。
アルコールの原料となる糖分を加えることで、それだけアルコールが多く生み出されるというわけです。ちなみに、加えられた砂糖はアルコールに分解されるため、基本的に加糖によって甘味が増えるわけではありません。
ワインへの加糖は、どういう場合に行われる?
ワインの原料となるブドウの品質は、その年ごとの気候条件などに左右され、時には糖分の少ないブドウしか採れないこともあります。
糖分の少ないブドウでワインを造ると、アルコール分が低い、単調なワインになってしまいがち。そこで、足らない糖分を補う目的で砂糖を加えることが行われてきました。
ワイン用語で「補糖」と呼ばれるのは、通常の状態に「加える」のでなく、足らない糖分を「補う」から、というわけですね。
ワインに加糖する「シャプタリザシオン」の歴史を紐とく
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ワインへの加糖はいつごろから?
ワインに加糖する「補糖(シャプタリザシオン)」は、いつごろから行われてきたのでしょうか?
前述のように、もともとブドウの質が悪い時の対策として、ワイン造りの現場で行われてきたようですが、「シャプタリザシオン」と呼ばれる製法として公認されたのは、ナポレオン時代のフランスでした。
「シャプタリザシオン」という呼称は、普及させた人名に由来
当時、フランスワインは低迷期にあり、時の内務大臣ジャン・アントワンヌ・シャプタル氏は、その原因がワインの品質低下にあると分析。その対策として考案したが、根菜類から抽出したショ糖をワインに添加して発酵させることで、飲みごたえを強くすることでした。
これが「シャプタリザシオン」と呼ばれるようになった由来です。
ワインに加糖して糖を補う「シャプタリザシオン」への評価は?
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ワインへの加糖に対するイメージは?
ワインへの加糖に対しては、「できる限り自然に近い手法で造るべき」との考えから、よい印象を持たない人もいるようです。また、「ブドウの栽培技術が向上した現在では、あえて加糖する必要はない」「加糖することでワインとしてのバランスが崩れる」といった意見もあります。
ワインには“自然の産物”というイメージがあるので、こうした意見が出るのも、ある意味、当然と言えるかもしれません。
ワインへの加糖には一定のルールがある
ワインに加糖する是非については、ワイン愛好家や生産者の間でも議論が続いています。ワインの主要産地を抱えるEU全体としては「濫用は避けるべきだが、加糖が必要な場合もある」との考え方から、一定の規制を設けて加糖を認めています(イタリア、オーストリアなど許可してない国や地域もあり)。
たとえば、フランスワインの格付け制度AOCでは、「加糖の上限を定める」「加糖できるのは甘蔗糖、甜菜糖、濃縮果汁のみ(白ワインは甘蔗糖のみ)とし、ブドウ糖は禁止とする」などの基準を設けています。
発酵途中のワインに加糖してアルコールを強化する補糖(シャプタリザシオン)は、天候不順な年でもおいしいワインをたのしむために編み出された“生産者の知恵”と言えるでしょう。その是非を問うよりも、つねに良質なワインを提供しようとする生産者の工夫に感謝したいものです。