ポルトガルワインの魅力を和食とのペアリングで知る、楽しむ
世界のトップジャーナリストが注目し、近年、日本でも少しずつ評価や認知が高まっているポルトガルワイン。その魅力、和食とのペアリングでぐっと身近になるのです。気鋭の和食店『野田』でのイベントを通して紹介します。
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目次
多彩なブドウ品種と土地の個性~ポルトガルワインの概略
この日のペアリング用に揃えられたポルトガル各地のワイン
提供:AICEP 撮影:kohei Nakamoto
まず、ポルトガルワインの全体像から。ポルトガルは、日本に例えると東北6県+群馬と栃木を足したぐらいの広さの中で、地形も土壌も、地域の気候も多様。ここに14のリージョン(優れた産地と認められたエリア)があり、それぞれの土地の個性を生かしたワインが生まれます。
軽やかさ、親しみやすさで知られるヴィーニョ・ヴェルデ、近年赤ワインの評判が高まるダン、ポートワインで名を馳せ、近年では優れたスティルワインが生み出されているドウロ、もともと量的にも一大産地で、近年良質なワインが増えてきたアレンテージョ、さらに、本土から1,000kmほど離れた大西洋に浮かぶアソーレス諸島、ポートと並ぶポルトガルの至宝マディラを生むマディラ島まで、海岸、内陸の盆地、高い標高、海風の島など各地域ならではの特徴があります。
また特筆すべきは土着品種。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどの国際的なメジャー品種よりも、古来より受け継がれたポルトガルならではの、トゥーリガ・フランカ、トゥーリガ・ナシオナル、アラゴネス、アリカンテ・ブーシェ、トリンカデイラ、ロウレイロやティンタ・ロリスにアルフロシェイロ…などなどポルトガル固有の品種は250種類以上も存在すると言われていて、これら個性が世界でも希有なポルトガルワインらしさにつながっています。
日本と似ている?ポルトガルの食文化
海の幸と山菜。シンプルだからこそ旨味を感じる一皿もポルトガルと日本の共通点か
提供:AICEP 撮影:kohei Nakamoto
これらのワインはもちろんポルトガルの料理にあうわけですが、実は和食とも親和性が高いのです。なんといっても海の幸。大西洋に面し、タラ、イワシ、タコやイカといった魚介類が豊富で、特にタラは国民食。以前、あるワイン生産者に聞くと「タラのレシピだけで365日分ありますよ」と笑顔。定番はバカリャウ(タラの身を塩漬けし乾燥させたもの)のコロッケ、パシュテイシュ・デ・バカリャウ。家庭はもちろんバルでも親しまれています。
イワシではサルディーニャス・アサーダス。新鮮なイワシを塩焼きにし、オリーブオイルやビネガーなどをかけていただきます。カタブラーナと呼ばれる蓋つきの銅鍋で魚介、腸詰、野菜を煮込む郷土料理はポルトガルの山と海、食文化を一度に食せるおすすめ料理。
米料理も各地で食されています。味付けはガーリック、スパイスを使うものもありますが、総じてシンプルという感覚。だからこそ素材のうまみや滋味が伝わります。これも日本との共通点でしょうか。
歴史の教科書も、ポルトガルと日本の関係に触れています。1543年、種子島へポルトガル商人が漂着し、鉄砲が伝来。その際に、天ぷらやカステラの原型とも言えるポルトガル料理が伝わっています。ポルトガルを代表するスイーツ、パステル・デ・ナタ(エッグタルト)も日本人が好きなタイプですね。
魚介、ポテト。素朴な味わいを美味しさと気軽さで彩るポルトガルの白ワイン
タラやポテトの名物料理は伝統的でもあり創作料理としても面白い
提供:AICEP 撮影:kohei Nakamoto
食との親和性が高ければ知られざるワインの魅力も伝わりやすいのではないか?そこで舞台となったのは、東京・原宿の和食店『野田』。
ポルトガルと日本の交流480周年を記念し、和食とポルトガルのプレミアムワイン9種類をペアリングするという会でした。会を主宰した、ポルトガル投資貿易振興庁 駐日代表 ミゲル・マリェイロ・ガルシアさんは、「数年前よりプライベートで野田さんのお店に通い始めて以来、彼のクリエイティブで美しい料理の数々にすっかり魅了されました。彼と交流する中で、この夏、ポルトガル料理を実際につくって彼に知ってもらう機会がありました。ポルトガル料理にインスパイアされた彼の特別なクリエイションを、日本でも手に入るポルトガルのプレミアムワインとともに、食の美学を愛する皆さまに愉しんでいただけることをたいへん嬉しく思います」とコメント。
会はまさにそのとおりの愉しみに溢れました。アミューズにはポルトガルで愛されるヤギのチーズ、2皿目にはバカリャウをイメージしつつタラの代わりに旬の蟹、ポテトには北海道産の北あかりに、和食らしい食感を銀杏で表現。また秋らしく菊のお浸しを添えるなど、ポルトガルの名物料理に和食のエッセンスを加えたり、和食らしい逸品にポルトガルの食材やスパイスを用いるなど変幻自在。
これにポルトガルワインも手を取りあいます。トゥーリガ・ナシオナルを使った2011年ヴィンテージのスパークリングワインは力強い酸から少しずつ包容力が増し、力強さの中に芯の強さが。続くアゾーレス諸島の100年以上の古木から生まれた白ワインは、潮風の中で育った風合いを感じ、秋の東京にきらきらと煌めく陽射しと海風を運びながら、日本の魚介の旨味との調和も見事でした。
滋味、深みあふれる肉、魚をより至福へと導くポルトガルの赤ワイン
静かだけれど荘厳。料理とともに深まっていくポルトガルのプレミアムな赤ワイン
提供:AICEP 撮影:kohei Nakamoto
ドライトマトとオレガノに昆布を加えた日本とポルトガルを結ぶ出汁に、名物のイワシ料理をサンマに変えてポルトガルのオリーブオイルと日本の肝醤油を添えたり、シンプルに見えても、素材の旨味、組み合わせの複雑さ、手間のかけ方、さらにテクスチャーの妙に凄みを感じる料理が続きましたが、ポルトガルのワインたちも、それに合わせるかのように個性を発揮していきます。
中盤からはアレンテージョ、ドウロのプレミアムな赤ワインに入ってきましたが、肉、魚の持ち味に美しい酸と静かで深い清涼感で応えていきます。
例えば9種目として登場したドウロの赤ワインは、90年以上を数える樹齢のものを含む畑に混在する30種以上のぶどうをブレンドしたもので、アーシー(土由来の風味)さとエレガンスさを同時に持ち、多種多様なブドウたちが織り成す個性の競演が自然に溶け込み、集中力を高め、グラスの中から再びその多種多様を解き放つような感覚。しみじみ静かなのに底知れぬパワーと多様性の輝きが料理とともに現れてきます。和とポルトガル、どちらのハーブとスパイスが混在しても、素材そのものが和とポルトガルと混在しても、すっと寄り添ってくれる。そんな魅力が感じられました。
追記すれば、器にもこだわりが。マディラ酒で漬けた佐賀牛には唐津焼き。料理だけではなく、器の風合いとアレンテージョのアンフォラで熟成させた赤ワインがなんとも不思議な調和。
頭で考えるよりも、まず味わう。混沌も楽しいのがポルトガルワイン
野田 雄紀氏(左)とポルトガル投資貿易振興庁 駐日代表 ミゲル・マリェイロ・ガルシア氏
提供:AICEP 撮影:kohei Nakamoto
もちろん食の親和性が高いとはいえ、ポルトガルの本場の料理というのは日本ではまだまだ知られていません。野田氏が見事にポルトガル料理をリスペクトしながら和食と結びつけ、鮮やかにポルトガルの食文化を紹介し、ポルトガルワインの面白さと日本における魅力を提示してくれました。
冒頭の概略にポルトガルの土着品種をつらつらと書きましたが。4つ5つ6つと畑で混ざって栽培されていることもありとてもつかみづらい。でも、確かにぶどう品種や造り方を覚えるのも大切かもしれませんが、その前にワインを味わってみて自分にとって美味しくて、魅力的かどうかが大切。
今回供された希少価値も高いプレミアムワインだけではなく、価格帯も味わいも気軽なヴィーニョ・ヴェルデをはじめ、コスパの良さを大いに感じられるワインも多いポルトガルワイン。まずはポルトガルワインを体感して、そこから楽しく、世界でも希有なブドウ品種とテロワールと醸造家の匠の迷宮に迷い込むのも良いでしょう。