自然派ワイン(ヴァンナチュール)とは? 定義や農法・製法、おすすめ銘柄を紹介
「自然派ワイン」は仏語の「ヴァンナチュール」の日本語訳。一般的に、「できる限り自然の力を活かしてブドウを栽培・醸造したワイン」と認識されていますが、定義はあいまいです。今回は自然派ワインの定義や、農法・製法、おすすめ銘柄などについて紹介します。
- 更新日:
「安心安全で健康的」というイメージのある自然派ワイン(ヴァンナチュール)。オーガニックワインやビオワインとの違いを含めて紹介します。
自然派ワインとは? オーガニックワインやビオワインとの違いも確認
Rostislav_Sedlacek / Shutterstock.com
「自然派ワイン」と呼ばれるジャンルがありますが、具体的にはどんなタイプのワインを指すのでしょうか。オーガニックやビオワインとの違いを含めて確認していきます。
自然派ワインは可能な限り「自然」にこだわって造られるワイン
「自然派ワイン」という言葉は、フランス語の「Vin nature(ヴァンナチュール)」を日本語に訳したもの。英語では「ナチュラルワイン(Natural wine)」といいます。
日本では、「自然派ワイン」ということもあれば、「ヴァンナチュール」や「ナチュラルワイン」と表現することもあります。
自然派ワインには、明確な定義はありません。日本では一般的に、人工的・化学的なものを極力排除したブドウ栽培と醸造をめざし、有機栽培のブドウを原料に、亜硫酸塩(酸化防止剤)の添加を控えめにして造られたワインが、自然派ワインとみなされています。
日本語で「自然」というと、人の手を加えないあるがままの姿といったニュアンスがありますが、ワイン造りにおいては、すべて自然任せというわけにはいきません。野生のブドウで上質なワインを造るのは至難の業。通常のワインでも、その年の天候や造り手の技術などにワインの出来が左右されます。
無農薬・無添加で造るといっても、雑草や害虫からブドウ樹を守りながら良質なブドウを作り、高品質のワインを醸造して、デリケートな品質を保持したまま流通させるには、やはり人の手が必要です。ブドウ作りにおいても醸造工程においても、しっかり手をかけるからこそ、よいワインが生まれるのです。
とはいえ日本では、ほとんど手を加えず、数値管理などもせずに自然のまま造るのがよいとする考え方もあるようです。また、日本語の「自然」と外国語の「Nature」のニュアンスの違いからも、自然派ワインに対する意見はさまざまに割れています。
なお、フランスにはヴァンナチュールの製法についての決まりがあり、ブドウは認証を受けているオーガニック栽培で、収穫は手摘み、野生酵母で発酵させる、亜硫酸塩を添加しないなどの規定を満たしたものだけがヴァンナチュールであると定義されています。醸造家たちは、自然の恵みを最大限に活かしながらも、厳しい規定に準じて生産しています。
Will Howe / Shutterstock.com
オーガニックワインやビオワインは自然派ワインの一種
ワインには「オーガニックワイン」や「ビオワイン」と呼ばれる種類があり、日本ではいずれも自然派ワインの一種と捉えられています。じつは海外と日本では事情が異なるため、それぞれの概要をかんたんにまとめます。
オーガニックワイン
「オーガニックワイン」の「オーガニック(Organic)」は英語で「有機」の意味。「オーガニックワイン」を一言でいうと、有機栽培のブドウから造られたワインを指します。
EU圏やアメリカなどで「オーガニック」と謳うには、国や専門機関の認証を受けなければなりません。日本においては、これまで「オーガニック」や「有機」と表示するには、国税庁の「酒類における有機の表示基準」に従う必要がありましたが、JAS法が改正されたことで2022年10月1日に廃止(2025年10月1日までは廃止前の基準適用)。代わって、有機酒類に有機JASマークを貼付できるようになります。
これにより、2025年10月1日以降、酒類に「オーガニック」や「有機」と表示するには、有機JAS認証を取得して有機JASマークを貼付することが必須となります。それまでの期間については、「酒類における有機の表示基準」に従って表示するか、有機JAS認証を取得して有機JASマークを貼付したうえで表示するかの2とおりの方法が認められています。
※輸入品についても同様。
(参考資料)
農林水産省プレスリリース|有機酒類に有機JASマークの表示ができるようになります!
ビオワイン
「ビオワイン」は和製英語(造語)で、海外では「ビオ(BIO)」というのが一般的。「ビオ」は、「有機」「オーガニック」を意味するフランス語の「biologique(ビオロジック)」やイタリア語の「biologico(ビオロジコ)」などを略した言葉です。なお、EU圏などでは「ビオ」と「オーガニック」はほぼ同じ意味で使われていて区別されていません。
EU圏などで「ビオ」と名乗るには「オーガニック」と同様に認証を受ける必要がありますが(オーガニックもビオも認証機関は同じ)、日本では「ビオワイン」や「ビオ」という表現に表示規定はありません。
ちなみに、海外でオーガニック(ビオ)の認証を受けているワインでも、2025年10月1日以降は日本で有機JAS規格の認定を受けていなければ、ボトルラベルに有機JASマークの貼付や、「オーガニック」「有機」と表示して販売することはできません。
自然派ワインの生産方法|ブドウの栽培法や製造の特徴
FreeProd33 / Shutterstock.com
自然派ワインに分類されるワインについて、ブドウの栽培方法と製法の特徴について確認します。
自然派ワインの原料となるブドウの栽培方法(農法)
自然派ワインの生産者は、それぞれの考え方に合う農法でブドウを栽培しています。ここでは代表的な3つの栽培方法について紹介します。
ビオロジック農法(オーガニック)
「有機農法」とも呼ばれる栽培方法。化学的な農薬や肥料、除草剤、殺虫剤などを一切使用できず、鶏糞などの有機肥料を使います。例外的に、病害虫予防に「ボルドー液」の使用は認められています。ブドウの収穫は手摘みで行われます。
ビオディナミ農法(バイオダイナミック)
「生体力学農法」とも呼ばれる栽培方法。基本的にはビオロジック農法と同じですが、より厳格な決まりが設けられています。具体的には、オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナー氏が提唱した理論に基づき、月や星座など天体の動きに合わせた種まきカレンダーに合わせて農作業を行い、天然由来の肥料(調合剤=プレパラシオン)を使用します。
減農薬農法(リュット・レゾネ)
化学肥料や農薬などをできるだけ使わずにブドウを栽培する農法。認証機関がなく、法律で規定されているわけでもないため、栽培方法は生産者に委ねられています。規定に縛られずよいワインを造れるというメリットがある一方で、商業目的でリュット・レゾネと謳われている場合も。
自然派ワインの製造の特徴
自然派ワインは、ブドウの栽培だけでなく醸造方法についても、認証機関の規定に従って、もしくは生産者のこだわりに基づいて造られています。
人工の培養酵母ではなく天然酵母を使用、亜硫酸塩の使用はごく少量か無添加、ろ過や加熱殺菌をしない、香料の使用を控えるなど、一般的には人工的、化学的なものが極力排除されているのが特徴です。ただ、人工的、化学的なものを排除すればするほど手間暇がかかることになります。
とはいえ、これらすべてを満たして造られているからといっても、必ずしも自然派ワインを名乗っているとは限りません。
自然派ワインの選び方
Evgeny Karandaev / Shutterstock.com
自分で自然派ワインを選ぼうと思っても、種類が多くて迷ってしまうかもしれません。そんなときに役立ちそうな、自然派ワインを選ぶ際のポイントを紹介します。
オーガニックなどの認証マークつきのワインを選ぶ
国内外の認証マークを頼りにすれば、「自然派ワイン」と呼ばれるワインを選べます。
ビオロジック農法で造られたオーガニックワインを選ぶ場合
◇ユーロリーフ(EURO LEAF)
EUオーガニック認証マーク。ブドウ栽培や亜硫酸塩についても規定。
◇エコセール/エコサート(ECOCERT)
フランスで設立された世界最大級の国際有機認定機関が認証。
◇AB(Agriculture Biologique)
フランス農務省によるオーガニック、およびビオの認証マーク。エコセールに認められたものだけが貼付可能。
◇USDAオーガニック認証
アメリカ農務省によるオーガニック認証マーク。
◇ビオシーゲル(Bio-Siegel)
ドイツ政府によるオーガニック認証の統一規格。ユーロリーフと一緒に貼付可能。
◇有機JASマーク
日本の農林水産省が有機食品の検査認証制度に基づいて認証。「オーガニック」「有機」の表記も可能に。
ビオディナミ農法で造られたワインを選ぶ場合
◇デメテール/デメター(Demeter)
ドイツ発の国際的なビオディナミの認証ラベル。ブドウの栽培や製法について厳しく規定。
◇ビオディヴァン(Biodyvin)
エコセールに認証されたワインのみに表記。
各国でオーガニックを意味する認証マークがあるので、自然派ワインが気になる人はチェックしてみてください。
ワインショップの店員さんなどプロに相談
オーガニックなどの認証マークのない、リュット・レゾネなどの自然派ワインに出会いたいときは、ワインの専門家であるプロに相談するのが近道です。ブドウの製法など、こだわる条件がある場合はぜひ伝えてみてください。
また、ワイン評論家が勧める自然派ワインを選ぶのもひとつの手です。ネット上でも紹介されているので、参考にしてみてもよいかもしれません。
ちなみに、フランスの有名なワイン産地シャブリやシャンパーニュ地方では、オーガニックを実践しにくい環境下にあるので、リュット・レゾネで造られているものがたくさんあります。
自然派ワインのおすすめ銘柄
Larina Marina / Shutterstock.com
最後に、数多ある自然派ワインのなかから、おすすめしたい赤ワイン・白ワイン・スパークリングワインの銘柄を1本ずつ紹介します。
シャトー・デュ・シャン・デ・トレイユ
フランス・ボルドーで造られている自然派ワイン。ビオディナミ農法に近い栽培方法を採用していますが、あえてビオディナミの認証を取得していません。芳醇な果実の香りと、洗練されたタンニンが魅力の赤ワインです。
プローダー・ローゼンベルグ ヴィヴァイス
オーストリア産の自然派ワイン。ビオディナミ農法で造られていて、ドイツのデメテールの認証を受けています。無ろ過で、亜硫酸塩は不使用です。華やかな香りとやさしい味わいが特長の白ワインです。
クロ・テ・レ・ソレレス チャレッロ
スペイン産の自然派ワイン。ビオロジック農法で造られていて、スペイン・カタルーニャのオーガニック認証「CCPAE」を受けています。優美で華やかな香りと、熟成感のある微発泡のスパークリングワインです。
自然派ワインの定義はあいまいですが、かんたんにいうと限りなく自然に近い農法・製法で造られたワインの総称です。近年注目されているジャンルのワインなので、機会があれば手間暇かけて造られた味わいを確かめてみてくださいね。