ワインと日本酒のペアリングを堪能できる老舗温泉宿/静岡県・松崎町『桜田温泉 山芳園』

ワインと日本酒のペアリングを堪能できる老舗温泉宿/静岡県・松崎町『桜田温泉 山芳園』

数多くのメディアで絶賛されている『桜田温泉 山芳園(さんぽうえん)』。効能豊かな温泉、地産地消の料理などのおもてなしで評判の温泉宿ですが、最近新たな魅力が加わりました。それは地元産のワインや日本酒を中心としたペアリング。旅の食シーンをより豊かにする取り組みについて、実泊してレポートします。

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木の温もりと香りに包まれ、リフレッシュできる宿

牧歌的な田園地帯にたたずむ一軒宿。全国でも希少な“なまこ壁”が迎えてくれます。

山芳園があるのは伊豆半島南西部の静岡県・松崎町。町の中心部から車で10分あまり山間に入ったところで、どこか懐かしい里山の風景が広がっています。今回案内してくださったのは、吉田広美(よしだ・ひろみ)さん。跡継ぎである若旦那の匡宏(まさひろ)さんと結婚、2013年から若女将として訪れるゲストをもてなしています。

「吉田家は木材資源に恵まれていたようで、建物にはふんだんに木が使われているんです。木の温もりに触れ、木の香りに癒され、気を養っていただき、気持ちが柔らかになるお時間を過ごしていただきたいですね」。

温泉愛好家や旅行ジャーナリストの評価が高い山芳園。メディア紹介時のメインビジュアルとしてしばしば登場するのが露天風呂です。そのスケール感が半端ではなくて、広さがおよそ20畳、深さも1メートル前後あり、正直泳げてしまうほど。

さらに驚くことに
「こちらは貸し切りなんです。特に料金はいただいておらず、予約も不要。空いていたら何度でもご利用いただけるんですよ」。
大自然と一体になれる湯浴みを独占できるなんて夢のようですね。

『貸切大露天風呂』。通常の旅館なら共用として使われるであろう広さ。夜は満天の星を眺めながら浸かれます。

この巨大露天風呂やヒノキの大浴場などで供されるのは、“地中直結 源泉かけ流しの湯”。加水しないのはもちろん、空気に触れていない源泉100%の温泉で湯船を満たしているということですが、本当にそんなことができるのでしょうか?

「源泉と浴槽を直結させる独自の冷却装置を開発して、可能になりました。ちなみに現在の泉温は72.8度。湧出量:毎分約540リットルですが、資源保護の観点から通常は使用量を毎分約200リットルにコントロールしています」。

『唐傘天井の桧(ひのき)風呂』(男女別大浴場)。ヒノキをふんだんに用いた大浴場。湯船の底から湯が注がれるため、まるで地中の底から湧き出てくるように感じます。

客室は全10室。和室、和洋室、メゾネットの離れなど、それぞれで設えが異なります。宿泊したのは『蓮華(れんげ)』。和テイストのツインベッドルームは14畳とゆったりした広さ、ウッドフロアで清々しい木の香りに満ちていました。

木がふんだんに使用された『蓮華(れんげ)』では、屋内なのに森林浴をしているよう。

『石の蔵』はメゾネットタイプの離れ。ペット同伴OKなので、愛犬家の利用も多いそうです。

料理長は若旦那の匡宏さん。食材は自家農園で自然栽培(農薬不使用)している「アイガモ農法米」「柑橘」「山菜」「原木椎茸」や、地魚、地野菜、本ワサビなど、伊豆の地物を中心に扱っています。どのような料理に仕立てられているかは、後のペアリングの章で詳しく。

またこちらの食事は、バリエーションが豊かなのも特徴。例えば夕食ひとつとってもスタンダードコースのほかポーションが少な目のライトコースの設定もあって、食の細い方はもちろん、つまみ重視の呑兵衛なゲストに歓迎されています。

朝食、夕食ともに食事室で。完全に独立したプライベートな空間で同行者のみで味わうことができるのは、今のご時世とても大切なことですよね。

ほかのゲストに気兼ねすることなく食事をたのしめる個室食事処。

若女将はソムリエとSAKE DIPLOMAの資格を取得

宿の料理を意識して、若女将の広美さんが目利きしたワインと日本酒。

さてここからは『たのしいお酒.jp』らしい展開に。温泉とおもてなしでゲストを魅了してきた宿に、新たな魅力が加わったのはごく最近のこと。これまでもドリンクメニューにはこだわりがありましたが、そのラインナップが一新されました。アイテムを選んだのは広美さん。じつは若女将であると同時に、(一社)日本ソムリエ協会のソムリエとSAKE DIPLOMAの有資格者でもあるんです。

「お酒は独身時代から好きでしたが、バーでカクテルとかを飲む機会が多く、ワインにはあまり馴染みがありませんでした。でも飲み友達とちょっと背伸びして西麻布のレストランで飲んだ赤ワインが本当に美味しくて…」。

ワインの魅力にはまってしまった広美さんのお仕事はANAの国際線のキャビンアテンダント。業務の一環としてワインに携わるようになっていたこともあり、
「ただプライベートでたのしく美味しく飲むだけではなくて、ちゃんとした知識を身に着けたいといつしか考えるようになりました」。

「資格を持つことでお客様は信頼してくださいますし、私も(資格に)恥じないように日々アップデートしていかなければならないという戒めになります」(撮影時のみマスクを外しています)。

キャビンアテンダントはソムリエの資格を受ける権利があり、実際に取得している人が多い業種。広美さんも受験を真剣に考えたころに匡宏さんとご縁ができて結婚。静岡県の温泉宿を手伝うことになりました。
「そのころはワインスクールに通わないとまず無理みたいな雰囲気があり、田舎で新しい生活を踏み出した私は、その夢を諦めざるをえませんでした」。

ところが旅館の業務にも慣れてきた数年後、その封印を解くことに。
「今までのキャリアを無駄にせず、宿の仕事に生かせればと考えました。諦めたころとは違って、インターネットで検索してみるとかなりの情報を得ることができたので、やり方次第では合格できる可能性があると思ったのです」。

「これは!」と思えるブログなどを参考にして、1次試験は独学で。2次試験(試飲)と3次試験(実務)は上京してワインスクールの授業を単発で受け、見事にストレートで合格されたそうです。

「地方にいるハンデは確かにありますが、やはりやり方次第だと思います。幸か不幸かコロナ禍でリモート授業が一般的になったので、これからはより挑戦しやすくなるのではないでしょうか」。

そして間髪を入れずに日本酒や焼酎と言った国酒の資格・J.S.A. SAKE DIPLOMAにもチャレンジ。昨年末に取得したのです。

広美さんの襟で光り輝く、SAKE DIPLOMA(上)とソムリエの認定バッジ。

オンメニューしている酒は、ワイン、日本酒、ビール、焼酎そして果実酒に至るまで、静岡県産が中心。取材に伺った時はワイン8種、日本酒も8種用意されていました。
「日本酒はすべて静岡県産で純米や純米吟醸が中心ですが、キレのよい本醸造も加えています。ワインは4種が伊豆で醸されたワインです。残りの4種は、料理などの相性を考えて選んでいます」。

伊豆のワインは試飲サイズ(20cc)を設定、日本酒には『地酒3種の吞み比べセット』も用意されているので、地産地消を体験しやすいのが嬉しいですね。

外食産業などを手がける『シダックスグループ』が運営する『中伊豆ワイナリー シャトーT.S』で醸されたワイン。もちろんブドウ栽培から手がけていて、完全な伊豆産ワインです。

酒処で知られる静岡県の地酒がずらりと並んだ様子は、左党にはたまりません。

女性受けしそうな『志太泉にゃんカップ』。中身は普通酒ではなく、純米吟醸です。

メニューにはゲストがオーダーしやすくスタッフも間違えにくいようにと、「ワイン番号」「SAKE番号」が付けられていました。

お待ちかねの夕餉とワイン&日本酒のペアリング

地産地消の料理に、地産地消の酒をペアリング。口福の時間を堪能できます。

ここからは若旦那と若女将の共演タイム。この日の献立から4品とそれぞれに合わせたワインと日本酒にご注目ください。

刺身×静岡県伊豆産白ワインのペアリング

『駿河湾 この日の刺身盛り合わせ』(金目鯛、ムツ、アカハタ、ウメイロなど)。

駿河湾に水揚げされた魚介のお造りからスタート。
「常に4~5種で10切程度をお出ししています。伊豆名産のワサビをおろしていただき、塩や醤油で味わってください」。
おすすめされた塩は、松崎町の温泉水を平釜で煮詰めて造られているそうです。

ワインはシャルドネとリースリングが主体のライトボディ。フレッシュな柑橘と白い花のような香りがあり、爽やかで軽やかな辛口です。
「食事のスタートなので、温度は冷やしめにしました。まずはお刺身を塩で。塩のミネラルとワインのミネラリーさがマッチするのを実感していただけると思います」。

『伊豆の丘プロローグ 白』(中伊豆ワイナリー シャトーT.S/1100円)。※以下ペアリングで登場するワインと日本酒の価格は、グラスなど酒器での提供時のもの。ボトル価格ではありません。

さつま揚げ×静岡県産純米酒のペアリング

『松崎町産 川海苔さつま揚げ』。

厚みがあってボリューミーなさつま揚げ。松崎町の老舗から仕入れていて、いただいたのは川海苔の入ったタイプ。手前に添えられたマヨネーズから清冽な香りが立ち昇ってきます。
「松崎町特産の桜葉の塩漬けを入れているんです。ブロッコリーやズッキーニなどの野菜ももちろん地元産。シャキシャキ感をたのしんでください」。

今度は日本酒。酒米は静岡県で開発された誉富士(ほまれふじ)、静岡酵母を使用していて、まさに“オール静岡”。米感がしっかりとありますが、とても穏やかな味わいです。
「川海苔と桜葉の香りが強いので、香り強めのお酒だとまとまりにくいのです。こちらは静岡の温暖なテロワールを表現。その優しさで料理を引き立ててくれます」。

『白隠正宗 純米酒』(静岡県酒米誉富士100%・精米歩合60%/静岡酵母NEW-5/880円)。

金目鯛煮つけ×静岡県伊豆産赤ワインのペアリング

『下田漁港 金目鯛姿煮』。

宿のスペシャリテである丸ごと金目鯛の煮つけが登場。黒光りしています…。
「つぎ足してきた秘伝の煮汁で、こってり煮詰めた当館の看板料理です」。
しっかりとした歯ごたえで、清涼感あふれる白髪ネギとともに口に運び始めると止まりません。余った煮汁で卵かけごはんもおすすめだとか。

この味わいに負けないようにと広美さんが選んだのは、伊豆産ヤマ・ソービニオン100%の赤ワイン。
「日本の土着品種ヤマブドウとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配品種です。鹿や猪が出没するようなワイルドなテロワールで育っているため、香りも味わいも野性的。インパクトさでは煮つけにも引けをとりません」とにっこり。
ワインのスパイシーさがより高みに導くようなマリアージュでした。

『伊豆 ヤマ・ソービニオン』(中伊豆ワイナリー シャトーT.S/1210円)。

ところてん×静岡県産純米大吟醸のペアリング

『西伊豆ところてんwith自家製黒蜜』。

スイーツも伊豆名物のところてん。自家製の黒蜜でいただいたのですが、とてもまろやか。
「黒蜜にはアルコール分を飛ばした静岡県の地酒を使用しているんですよ」。
傍らには柑橘系の香りがするケーキも。こちらも松崎町の人気洋菓子店のもの。まさに松崎町を食べ尽くす献立です。

「地酒を黒蜜に使用しているので、相手も地酒なら間違いがないですね」と甘味にもペアリング。合わせたのは静岡県産山田錦の純米大吟醸。48%まで精米していて、米のど真ん中ならではの上品な甘味が…。デザートワインといただいているような感覚で、ところてんとケーキを味わうことができました。

『駿州中屋 純米大吟醸』(静岡県産山田錦100%・精米歩合48%/静岡酵母NEW-5/1100円)。

【番外編】朝食×静岡県伊豆産ビール

『伊豆エールビール』(右/880円)と『しずおか あらごしみかん酒』(880円)。

翌朝は早めに起きて朝風呂。朝食ではもちろん地ビールをオーダー。さらにジュース代わりにとすすめられたのは、フレッシュなみかんのお酒。滋味豊かな小鉢や干物をつまみながら、朝から飲めるのは本当に幸せです!

ペアリング、しかもワインと日本酒の両方で体験できる温泉宿はいかがでしたか? 今後は「ペアリングコースの設定も考えています」と広美さん。少々飲み過ぎてしまっても、そのまま寝られるのが旅館飲みの醍醐味。次回の酒旅でぜひ訪れてみてください。

※価格やメニューは取材時のもの。すべて税込み価格です。

桜田温泉 山芳園
静岡県賀茂郡松崎町桜田569-1
TEL/0558-42-2561
アクセス/ JR特急踊り子号で伊豆急下田駅下車、バスで45分。東名高速道路・沼津インターより車で約90分。
宿泊料金/1泊2食の1名料金(2名1室利用時。消費税込み、入湯料130円別途)1万8700円~


桜田温泉 山芳園の詳細はこちら

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業日・時間などが変更になる可能性があります。お出かけの際は公式HPやSNS等のご確認をおすすめします。

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ理事。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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