日本酒業界の「シャブリ」を目指す!2023年の全国新酒鑑評会で金賞数全国一に輝いた山形県が目指す世界

日本酒業界の「シャブリ」を目指す!2023年の全国新酒鑑評会で金賞数全国一に輝いた山形県が目指す世界

たのしいお酒.jp編集部は、2024年4月23日にGINZA SIXで開催された山形県酒造組合主催の「令和6年度山形讃香商品発表会」に参加し、日本酒で「GI山形」の指定を受けた山形県の酒造りの取組みや、県産酒造好適米の話を聴く機会を得ました。吟醸王国と言われる山形県の酒造りについてご報告します。

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「吟醸王国」と言われる山形県の日本酒とは

「吟醸王国」と言われる山形県の日本酒とは

鳥海山と稲穂
かぜのたみ / PIXTA(ピクスタ)

山形県の農産物の生産について

山形県は、東北地方の日本海側で、北は秋田県、東は宮城県に隣接しています。
農産物の生産では、ラ・フランスなどの「西洋なし」、佐藤錦などの「さくらんぼ」が全国1位の収穫量、「そば」は全国2位、「つや姫」「はえぬき」などのブランドで知られる水稲は全国4位の収穫量です。

米どころ酒どころの山形県の酒造好適米の開発

米どころ酒どころの山形県内には、日本酒を製造する酒蔵は51蔵あり、全国でも6番目に酒蔵数が多い日本酒の銘醸地として知られています。

「吟醸王国」と言われる山形県の日本酒とは

Table-K / PIXTA(ピクスタ)

米どころ酒どころの山形県は「吟醸王国」と呼ばれています。
なぜ「吟醸王国」と呼ばれるようになったのでしょう。

山形県は雪の多い地域で、吟醸酒造りに必要な低温長期発酵に適した寒冷な気候環境を有しています。また、日本酒の醸造に重要な位置を占める「水」は、東の蔵王連峰、北の鳥海山系、南の飯豊朝日連峰系の山々からの清らかで豊富な水が利用でき、酒造りで重要な自然の恵みを享受することができる地域となっています。

そのような環境下、山形県では早々に日本酒の品質向上に取組みを始めました。
1980年代後半からは、全国でも例を見ない、農業関係者と蔵元、行政などが連携して、酒質改善の勉強会や県オリジナルの酒造好適米の育種の取組みを進めてきました。

「吟醸王国」と言われる山形県の日本酒とは

画像はイメージです
ばりろく / PIXTA(ピクスタ)

その結果、山形県産の酒造好適米として1995(平成7)年には「出羽燦々(でわさんさん)」が、2005(平成17)年には「出羽の里(でわのさと)」が、そして2015(平成27)年には山形産酒造好適米のフラッグシップとなる「雪女神(ゆきめがみ)」が誕生しています。

その間、県内の技術者を構成員とする山形県研醸会を組織し、技術力向上のための講習会の開催や、酵母や製品開発などの研究開発の取組みを進め、また、県内の15ヶ所で酒米研究会を結成し、会員同士の栽培管理技術の向上や収穫時期の検討などを行い、酒米の品質向上などにも取組んでいます。

酒米生産農家の志賀さん

酒米生産農家の志賀さん

酒米コンテスト「雪女神」部門で最優秀賞「知事賞」を受賞した生産農家で、今回(2024年)発売された「山形讃香」の原料米「雪女神」を提供した志賀さんによると、2023年は過去にないくらい暑い夏でしたが、志賀さんの田んぼは標高350mくらいのところにあるため、標高の低い平場より気温が少し低く、稲の生育によい影響を与え、その結果知事賞を受賞することができたのではないかと思う、と話していました。

志賀さんは、令和元年まで山形県高畠町の米鶴酒造で酒造りもされていた二刀流の米農家さんで、杜氏や蔵人が「こういう米で酒造りをしたい」と思ってもらえる品質の酒米を目指して米作りに励んでいるそうです。

当時から
“酒米生産者と蔵人がお互いに話し合い、意見を引き出し合って米作り・酒造りをすれば、もっと良い酒ができるとの思いがあり、いま実践しているところです”
と酒米作りへの想いをお話しされました。

「GI山形」の指定獲得

「GI山形」の指定獲得

出典:山形県酒造組合

酒類の「GI(地理的表示)」については、国税庁のホームページでは次のように説明されています。

酒類の地理的表示制度とは、地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進する制度です。お酒にその産地ならではの特性が確立されており、産地からの申立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができます。
産地にとっては、地域ブランド確立による「他の製品との差別化」、消費者にとっては、一定の品質が確保されていることによる「信頼性の向上」という効果があります。

出典 国税庁「酒類の地理的表示」

日本酒分野の「GI山形」は、2016年12月16日に国税庁より認定されました。
県単位として指定を受けた地理的表示制度「GI山形」は、日本酒分野では全国初の認定でした。

「GI山形」を名乗るためには、国内米と県内で採取された水を原料とし、県内で製造、貯蔵、容器詰めを行うことが必要で、その条件下で製造された日本酒について、原産地を特定する「山形」の名を冠して販売が可能になります。

令和4酒造年度の全国新酒鑑評会で全国トップの金賞獲得

令和4酒造年度の全国新酒鑑評会で全国トップの金賞獲得

2023年5月に発表された、令和4酒造年度(R4BY)の全国新酒鑑評会結果で、山形県産の日本酒の出品酒が20個の金賞を受賞しました。
この数は、全国1位で、他の金賞受賞上位県からも頭一つ抜き出た結果でした。

今回、山形県の出品酒で金賞を受賞した日本酒の多くが、全国的に主流の「山田錦」ではなく、山形県が開発した山形県産の酒造好適米「雪女神」を使用していたことは、これまでの山形県内の取組みの素晴らしさを証明する結果となりました。

「山形讃香」(やまがたさんが)統一ブランド事業の取組み

左より:銀嶺月山、大山、千代寿の山形讃香 純米大吟醸

左より:銀嶺月山、大山、千代寿の山形讃香 純米大吟醸

山形讃香の取組み

県産吟醸酒を市場に送り出すために、1986年から「山形讃香」の事業を開始。
この事業は、出品希望の県内メーカーの大吟醸酒の審査を行い、合格した酒を「山形讃香」として統一ブランドで販売する事業です。
この事業を通じ「優れた吟醸酒を製造・販売すれば売れる」という考え方が県内メーカーに広がりましたが、この時期は兵庫県産の山田錦を使用した製品が多い傾向でした。

新 山形讃香の取組み

現在の「山形讃香」の取組みは、製造規格や販売方法が厳格に決められていて、原料米は、山形県内の酒米コンテストで「知事賞受賞米」を獲得した山形県産酒造好適米の「雪女神」を最優先で使用(注1)することが決められています。
*「知事賞受賞米」を最大限活用しながら、「全農山形県本部長賞」「酒米協議会会長賞」受賞米も活用して必要な原料米数量を確保する。(90俵以上)

2023年に製造され、2024年4月23日に発表された「山形讃香」は、前述した酒米生産農家の志賀さんが栽培・収穫し、知事賞を受賞した「雪女神」が原料米として使用されています。

製造規格としては、「山形讃香」は、精米歩合は35~40%の純米大吟醸酒。香味のバランスが良く「雪女神」特有の後味スッキリ感が表現されたもので甘過ぎないものとされ、販売方法は、山形県酒造協同組合が商品管理を行い発売元となると決められています。

山形讃香の製造者は

「山形讃香」を製造する権利を得るためには、事前に実施される県内の審査会で上位評価を得た3蔵に入る必要があります。

2024年に発売された「山形讃香」を製造した蔵は、
・月山酒造㈱ (寒河江市/銘柄 銀嶺月山)
・加藤嘉八郎酒造㈱ (鶴岡市/銘柄 大山)
・千代寿虎屋㈱ (寒河江市/銘柄 千代寿)の3蔵です

説明会に参加していた寒河江市の千代寿虎屋㈱(銘柄 千代寿)の大沼社長は、

寒河江市の千代寿虎屋㈱(銘柄 千代寿)の大沼社長

“山形讃香を製造するにあたり、最終的にお客様に美味しいと言っていただける酒質設計にしようと杜氏と話し合い造りを進めました。
精米や麹菌にも注意を払い、発酵時間や仕込み水の調整をして作り上げたお酒。大変満足のいくお酒に仕上がったので、ご賞味いただければと思います“

また、鶴岡市の加藤嘉八郎酒造㈱(銘柄 大山)の加藤取締役は、

鶴岡市の加藤嘉八郎酒造㈱(銘柄 大山)の加藤取締役

“山形讃香の製造にあたっては、プレッシャーを感じながらも、名誉なことであるため、これまで培った経験や想いを注ぎ込んで最高のお酒を造ろうと臨みました。いろいろと工夫した変化球でなく「清酒 大山 純米大吟醸」のスタンダードの仕込み方で製造。満足のいく酒質に仕上がったのではないかと思っています”と説明がありました。

2024年の「山形讃香」は3蔵合計で約3000本の数量限定品。
3種類ともに720mlで 7,000円(税別)の価格設定です。

更に貴重な「山形讃香 しずく取り 木箱入り720ml」は各蔵とも約300本しか生産できません。こちらは3種類とも10,000円(税別)の価格設定で、前回分も早期完売してしまったそうです。

山形県酒造組合の目指すところ

山形県酒造組合の佐藤副会長(鯉川酒造㈱社長)

2024年4月23日に開催された山形県酒造組合主催の「令和6年度山形讃香商品発表会」の席上、山形県酒造組合の佐藤副会長(鯉川酒造㈱社長)から「山形のテロワールを大切にした酒造り」を組合として進めていきたいと、話がありました。

「テロワールを大切にした酒造り」とは、山形県産の酒造好適米や、山形の水を使用し、山形の地で醸した酒造りのこと。

さらに、山形県酒造組合の仲野会長(出羽桜酒造㈱ 社長)は「山形県は日本酒業界のシャブリを目指す」と話していると、佐藤副会長から説明がありました。

“どういうことかというと、「シャブリ」は、言わずと知れたフランスワインの銘醸地域格付けであり、「シャブリ」と書いてあるワインにははずれがない、ということです。

山形県の酒造業界は、小関敏彦先生(山形県酒造組合 特別顧問)、石垣浩佳先生(県工業技術センター 食品醸造技術部長)などの指導を仰ぎ、若手の醸造家も一生懸命切磋琢磨しています。山形県の日本酒も、現時点でははずれはないと思います。

今後は、はずれがないレベルからさらにレベルアップして、すべてのお酒が感動できるお酒になるように、取組みを続けていくことで、山形のお酒が一つのブランドとなるよう確立していきたいと考えています。

レストランのメニュー・ワインリストには、「ボルドー」「ブルゴーニュ」のように分類されてワインが掲載されています。メニューに、日本酒の分類カテゴリーが記載されるときには、そこに「山形」と表記されるような地域になっていきたいと考えています。

山形県酒造組合では、その実現に向けて「シャブリを目指す」ということを一つの合言葉として活動しています。“

“実現のために、一つは醸造の技術を磨き合うこと。もう一つは、蔵元がお互いにナンバーワンの個性を持つこと。
そしてそのナンバーワンの個性を持った蔵元の集合体(山形県の日本酒業界全体)ができた時に、本当の意味で、お客様にとってのナンバーワンになっていく、という姿を目指し、山形県の地元のテロワールにこだわりを持って取組みを進めていきたい。“
と熱のあるお話しがありました。

さらに、山形県酒造組合の仲野会長の言葉として
“今後、県として輸出にもしっかりと取組み、「吟醸」を世界の言葉に。そして、山形を、地元の米を使った吟醸の聖地にしたい” と常々話されていると報告され、これが現実になるよう山形県酒造組合は、山形県独自の新基準を掲げる取組みも検討していると説明がありました。


2024年に発表された「山形讃香」は、3種類ともに、同じ酒造好適米の「雪女神」を使用し、精米歩合も35%と同じでありながら、酵母や蔵元の造りの違いによって味わいに違いがありました。
純米大吟醸ですので、華やかな香りとふくよかな味わいが共通した特徴の一つとなります。

山形県が自信を持って販売する数量限定品ですので、見かけたら完売する前にご購入を検討されてみてはいかがでしょうか。

今回の「令和6年度山形讃香商品発表会」に参加して、2023年度の全国新酒鑑評会で金賞受賞数1位を獲得した山形県の取組みの奥深さを理解することができました。
今後の山形県の日本酒業界に注目したいと思います。

※今回お届けした情報は記事執筆時点のものです。ご利用の際は状況が異なる場合がありますのでご注意ください。

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