あなたの街の居酒屋で、隣の街の小洒落たバーで。
誰もが名を知るチェーン店から、名も無き小さな路地裏の店まで。
日本全国津々浦々、あらゆる街の、あらゆる酒場で、
毎日毎夜生まれては消えていく、
お酒がとりもつ一瞬の景色を切り取ります。
▲ カクテルに使われている「8:00pm 純米吟醸 生酒」は、旨味がしっかりキレもよい。
明るさを抑えた間接照明にお酒の瓶。明らかにバーなのに看板はなく、「司法書士 関口仁郎事務所」と書かれたガラス扉。ちょっと不思議な光景で、異世界への入り口ようにも見えてくる。 店内に一歩足を踏み入れると、オーセンティックバーの落ち着いた雰囲気。大人の街、麻布十番の住宅街にふさわしく、上品さもあって心地よい緊張感が漂う。
※ミクソロジーとは、mix(混ぜる)とology(学問・技術)を合わせた造語。20年前くらいにイギリスで誕生した、リキュールやフレーバーシロップを使わずに、フレッシュフルーツやハーブなどとお酒を組み合わせて作る新スタイルのカクテル。
▲ 写真左・隠れ家感を出すために、あえて看板はつけない。写真右・事務所として使っていた当時の棚にはお酒の瓶が並ぶ。
▲ 日本酒の旨味とミントの爽やかさがミックスされた日本酒のモヒートと果汁感のあるみずみずしい桃のカクテル。
※カクテルに使用される日本酒は「8:00pm 純米吟醸 生酒」「北の醸し家 純米吟醸生酒」のどちらか日によって異なります。
カウンターには桃やマンゴー、スイカなどの旬のフルーツが並ぶ。「ミクソロジー バー ソース 2102」では、フルーツやエスプレッソなどの香りを活かしたカクテルが特徴。バーにしては珍しく禁煙にしているというのも、その繊細な香りを存分に味わってもらうためなのだそう。
▲ その日に仕入れた新鮮なフルーツ。
どんなカクテルが飲みたいか、若手バーテンダー・植松大記さんとイメージを伝えてからつくってもらう。例えば、日本酒ベースのカクテルなら…?「今の時期おすすめなのは、メロンや桃、マンゴー、スイカを使ったもの。他にはミントに合わせてモヒート風にもできますよ」などと、幅広く提案してくれる。自分の好みのフルーツを伝えて、それに合うお酒を選んでもらうのもいいだろう。
▲ ミントや桃をたっぷり使うので、香り豊かなカクテルになる。
さっそく桃と日本酒のカクテルを注文。グラスの中でたっぷりの桃をペストル ※ を使って潰す、日本酒を加えシェイカーでシェイク、漉す、味見をする。手際よく無駄のない動きが目の前で繰り広げられつい見入ってしまう。植松さんは、コーヒーを使ったオリジナルカクテルなどの大会に出場し全国で2位という優れた腕前。「カクテルをつくっているときは一生懸命なので、話にものってきてくれない」と常連さんが愚痴をこぼすほど、真剣な表情だ。
※フルーツを潰す擦りこぎ棒。
▲ ステアする手つきが鮮やか。一流のパフォーマンスを見ているよう。
日本酒でつくるカクテルはスピリッツを使うものと比べると、まろやかで飲みやすい。「余計なことはせず、シンプルに日本酒とフルーツの良さを合わせます」と植松さん。果実感がしっかり感じられ、お米の甘さとも調和した女性に人気のカクテルだ。
お店に行ったなら、常連さんおすすめのポテサラをぜひ頼んでみよう。お店のビルのオーナーのお母さんが、2日に1度つくって届けてくれるものだそう。ジャガイモの皮は茹でたてのうちにむくのがコツで、お母さんが熱いのを我慢しながら作ってくれているという、心あたたまる一品だ。どこか懐かしくやさしい味がハーブで香りづけされ、どんなカクテルにも合う。
▲ 季節によってジャガイモ(キタアカリ)の産地も替えるというこだわりよう。
締めの一杯は、お店の看板商品でもあるアイリッシュコーヒーのカクテルを選びたい。挽きたてのエスプレッソと炎で温めたアイリッシュウイスキーでつくる。豆はカクテルの味に合わせて選んだスペシャリティ、今回はコロンビアの酸味が強い豆を使用している。また、このカクテルのためにつくられたオリジナルの小豆チョコレートも要チェック。カクテルのあたたかさで、ほっと一息つける。
▲ 写真左・さらにお湯を注いで調整、黒ビールのような色合い。写真右・元ピエール・マルコリーニのショコラティエが、バー専用でつくるオリジナルのチョコレート。カクテルと合わせるととろけるようなマリアージュ体験ができる。
▲ 「来年の大会では1位になれるようがんばります」と意気込む植松さん。営業が終わってから練習に励む。
今年の4月から、このお店の2代目バーテンダーとなった植松さん。カクテルをつくる時の真剣な表情とは別に、普段は人懐っこい性格で話好き。常連客にも可愛がられている。もとは、洋菓子屋の併設カフェでバリスタとして働いていたのだとか。「お酒もコーヒーと共通する部分が多いので、両方分かるようになれたらいいなと思って、お酒の勉強もはじめたんです」とバーテンダーへ転身のきっかけを語ってくれた。今でもラテアートスクールを開催し、コーヒーとお酒どちらも極めるため、日々の努力をかかさない。
看板もメニューもないけど、最近ではウェブサイトを見て遠くから来てくれるお客さんも多いそう。まるで実験室のようにさまざまな道具を駆使してつくる、最先端のカクテルが堪能できる。コーヒーやお酒の世界に夢中な植松さんの話がスパイスとなって、一段とお酒が美味しく感じられるはずだ。
福光屋
8:00pm 純米吟醸 生酒
1800ml
秋田清酒
北の醸し家 (かもしか)
純米吟醸生酒
1800ml