日本ワインの映画「Vin Japonais(ヴァン・ジャポネ)」NORIZO監督に取材しました

日本ワインの映画「Vin Japonais(ヴァン・ジャポネ)」NORIZO監督に取材しました

2022年秋に公開された日本ワインのドキュメンタリー映画『Vin Japonais~the story of NIHON WINE』。『日本ワイン.jp』編集長で、プロデューサー兼監督を務められた NORIZOさんに、この映画を撮るに至った経緯、そして日本ワインの現在地と将来の展望について伺いました。

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日本のワイン生産者との絆が、映画を撮るきっかけに

映画を通して、日本ワインの素晴らしさを世界に発信。

映画を通して、日本ワインの素晴らしさを世界に発信。

――日本ワインの啓蒙サイト『日本ワイン.jp』の編集長で、2022年に日本ワインのドキュメンタリー映画『Vin Japonais(ヴァン・ジャポネ)~the story of NIHON WINE』(以下『Vin Japonais』)をプロデュース。自らメガホンも取り、撮影もされたNORIZOさん。まずはワインに携わることになったきっかけを教えてください。

NORIZOさん 私は新卒で総合商社に入社。繊維部門の配属になってアパレル業界で長らく仕事をしていました。やがてファッション業界で独立。イタリアやフランスなども頻繁に訪れていたので、ワインに接する機会もありました。

ただ本格的にワインと向き合うようになったのは、南青山でパーソナルジムの運営に携わっていた時です。“ワインを飲んで、ダイエット”のようなプログラムを考案。ジムにセラーを置いて、ボトルを飾ったりしていたら、オシャレなおじさま達に受けてしまって…(笑) 雑誌の『LEON』にも取り上げてもらったんですよ。その頃に生半可な知識ではいけないと勉強して、ワインエキスパートの資格も取得したのです。

――初めから日本ワインに関わっていたわけではないのですね。

NORIZOさん そうです。やがてジムを受け継ぎたいという方が現れたのでお譲りし、私自身はワインのプロモーションのお手伝いやコンサルティングを行うようになりました。

ファッション関係の仕事をしていた時にPRを自らやっていた経験やスキルを活かし、WEBで動画を積極的に使用するという手法を確立。こちらを評価していただけて、百貨店のワインのサイトなどを任せてもらえるようになったのです。

そんな折、ふと思いついて開設したのが、日本の生産者を繋いでいくサイト。オンラインでインタビューした生産者に、次の生産者を紹介してもらうという趣向で始めたところ、あっと言う間に50を超える日本のワイナリーと親しくなり、業界でも注目されたんですよ。

――大変辛かったコロナ禍でしたが、日本の生産者と出会い、絆を深められた機会になったのですね。

NORIZOさん そうですね。「禍を転じて福と為す」でしょうか。いろいろなところから、お仕事の打診をいただきまして、『日本ワイン.jp』を運営する『株式会社CruX』もそのひとつでした。

すでに『日本ワイン.jp』は、日本ワインの啓蒙サイトとしての認知度はトップクラスだったのですが、新規の読者が増えず悩んでいる状況でした。私が編集長として加わり、動画を中心として再構築することになったのが、2020年のことです。

2年ほどサイトをより魅力的にするために尽力してきましたが、それもいったん落ち着いてきたので、「何か大きな仕掛けをやりたいね」ということになり、閃いたのが映画の製作だったんですよ。

外国へのPRとともに、国内での新たな需要も創造

フレデリック・カユエラさん(左)とフローラン・ダバディさんのフランス人ふたりが、ナビゲート。

フレデリック・カユエラさん(左)とフローラン・ダバディさんのフランス人ふたりが、ナビゲート。

――まだ観ていない読者もいると思いますので、ネタバレしない範囲で『Vin Japonais』の概要を教えていただけますか?

NORIZOさん 日本のワイナリーやワイン用のブドウ生産者を中心とした日本ワインを取り巻く人々、および自然や風土に焦点を当て、日本ワインの現在までの歩みと未来を描いたドキュメンタリー。取り上げたのは山梨や長野、北海道、新潟など日本を代表する生産地です。

――拝見した時にナビゲーターを務めたおふたりがフランス人。日本ワインの生い立ちや日本の地理などを、フランス人ジャーナリストのフローラン・ダバディさんが説明しているのが斬新でした。ダバディさんと言えば、元サッカー男子日本代表監督フィリップ・トルシエ氏の通訳・アシスタントを務めていた方ですよね。

NORIZOさん じつはダバディさんは、先述したジムの顧客で、ずっと親しくしていたんです。ワインに精通していて、旅行好き。もうひとりのフレデリック・カユエラさんは日本在住で、『WSET(ダブルセット※)』の『Diploma(ディプロマ)』の資格を持つワインのスペシャリスト。ワインスクールで講師もしています。このふたりをダブルナビゲーターにして、日本のワイン生産地を旅するように紹介すれば、より魅力的な映画になるだろうと考えたんです。

※ロンドンに本部を置く世界最大級のワイン教育機関。修了コースのDiploma取得者は、世界最高峰のワイン資格と言われる『マスターオブワイン』を目指すことが可能。

――海外に日本ワインの素晴らしさを発信しているというつくりですが、じつはまだ自国のワインのポテンシャルに気づいていない日本人にも観てもらいたい内容になっていますよね。

NORIZOさん 日本においてワイナリー軒数は近年急増して 500 近くになっています。ですがその一方で、生産量は下落気味という現実があります。残念ながら消費量が増えていないのですね。『Vin Japonais』は、まず海外での認知度を高めて輸出を増やし、インバウンドで日本のワイナリーを訪ねて欲しいという狙いがあります。

同時にご指摘いただいたように、国内のとくにワインに関心の低い若年層を中心に、この映画を通して、日本ワインの素晴らしさに気づいてもらいたいとも考えています。フランス人がナビゲートするという斬新なアプローチが、効果を出してくれることに期待しています。

細かく指示を出し、自ら撮影もするNORIZOさん。

細かく指示を出し、自ら撮影もするNORIZOさん。

『丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート)』の大村春夫社長と

『丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート)』の大村春夫社長と。

観光スポットも紹介し、旅のたのしさも伝わってきます

観光スポットも紹介し、旅のたのしさも伝わってきます。

NORIZO氏が注目している生産地とワイナリー

「まだあまり知られていませんが、ぜひ訪ねていただきたい産地とワイナリーがあります」。

「まだあまり知られていませんが、ぜひ訪ねていただきたい産地とワイナリーがあります」。

ここからは、NORIZOさんに注目の産地を3つ、そこで営むワイナリーとともに紹介していただくことに。あえて山梨、長野、北海道といった有名産地以外でとお願いしたところ、東北、四国、九州を挙げていただきました。

復興に貢献している東北地方のワイナリー

南三陸の海岸近くでワインを醸す『神田葡萄園』。※日本ワイン.jpより転載。

南三陸の海岸近くでワインを醸す『神田葡萄園』。※日本ワイン.jpより転載。

――最初のエリアは東日本大震災で被災した東北地方ですね。壊滅的な被害を受けた太平洋沿いから。ちなみに内陸部になりますが、先日私も福島県の『ふくしま逢瀬ワイナリー』をレポートしています。

NORIZOさん はい。復興支援の意味を込めて、まずはこのエリア。北から順にワイナリーを挙げていきますね。岩手県大船渡市の『Three Peaks Winery(スリーピークスワイナリー)』は、首都圏で働いていた及川武宏氏が故郷に帰り、地元のために何かしたいと起こしたワイナリー。自然な味わいのワインとシードルを造っています。

同じく陸前高田市の『神田葡萄園』は、明治38(1905)年という長い歴史を誇るワイナリーですが、現在はアルバリーニョの高品質な白ワインで有名です。震災で潮を被ってしまった土地が、ブドウ品種に向いたのかも知れませんね。

宮城県南三陸町の『南三陸ワイナリー』は、『Three Peaks Winery』同様に復興のための新しい産業として2019年に設立。目の前に海を望むという絶好のロケーションでワインを試飲できるんですよ。

出身地の中四国地方にも実力派ワイナリーが

創立早々、国際的に評価の高いワインを造った『ヴィノーブルヴィンヤード&ワイナリー』の横町崇(よこまち・たかし)さん。※日本ワイン.jpより転載。

創立早々、国際的に評価の高いワインを造った『ヴィノーブルヴィンヤード&ワイナリー』の横町崇(よこまち・たかし)さん。※日本ワイン.jpより転載。

――続いてのおすすめは、中国・四国地方。NORIZOさんは、島根県のご出身なのですね。

NORIZOさん 大阪生まれの島根育ちなんですよ。とくに関東圏の方には、このエリアでワインを造っているというイメージは薄いと思うんですが、興味深いワイナリーが多数存在しています。

広島県三次市『ヴィノーブルヴィンヤード&ワイナリー』は、ファーストリリースしたソーヴィニヨンブランが『IWSC(インターナショナル・ワイン・スピリッツ・コンペティション)2022』で、ゴールドメダルを獲得。国内より先に海外で評価された実力派で、ニュージーランド産と間違えるほどパワフルなワインは、ぜひ味わっていただきたいですね。

この辺りには他にも有名な『広島三次ワイナリー』、北の島根県には『島根ワイナリー』、鳥取県には1856年にルーツをもつ『北条ワイン醸造所』と、じつはワイナリーの宝庫。四国地方で注目なのが『大三島(おおみしま)みんなのワイナリー』ですね。みかん産地でブドウを育てているんですよ。海が絶景の『しまなみ海道』が通っているので、観光旅行のついでに訪れてみてはいかがでしょうか。

台風と闘いながらワインを醸す九州のワイナリー

寒暖差の大きい盆地の気候を利用して、ブドウを育てる『安心院葡萄酒工房』。※日本ワイン.jpより転載。

寒暖差の大きい盆地の気候を利用して、ブドウを育てる『安心院葡萄酒工房』。※日本ワイン.jpより転載。

――最後はさらに西へと進んで九州地方。沖縄県にはワイナリーはないので、日本のワイン生産地の南端ということになりますね。

NORIZOさん 著名なところでは、大分県の『安心院葡萄酒工房』、熊本県の『熊本ワイナリー』(『熊本ワイン』と『菊鹿ワイナリー』を運営)ですね。どこも台風が通過する地域なのに、その困難を克服して美味しいワインを造っているところに惹かれます。宮崎県の『都農(つの)ワイン』もそう。彼らは8月末までが勝負としていて、できればお盆前にブドウを収穫し、仕込みに入りたいと考えているんですよ。

こうした九州のワイナリーのもう一つの共通点は、美味しいシャルドネを造っていること。雨の多いところでシャルドネを育てるのは難しいと思うのですが、ビニール栽培などいろんな知恵を使って取り組んだ成果ではないでしょうか。

先日『安心院葡萄酒工房』を訪れたところ、2030年を目標に畑を広げ、生産量を10倍にして輸出するというプランを掲げていました。こちらに留まらず、概して九州のワイナリーには規模を大きくしたいというモチベーションの高さを感じるところが多いですね。

日本ワインをより身近にたのしむためには?

「生産者を応援したくなる“おらがワイン”を見つけて欲しいですね」。

「生産者を応援したくなる“おらがワイン”を見つけて欲しいですね」。

――まず日本ワインを飲んでみることが、日本ワインの活性化に繋がると思います。三菱食品が日本ワインの入門編として2021年の秋に『J-CRAFT WINE』をリリースしていますが、実際に飲まれてみた感想をお聞かせください。

NORIZOさん 北海道池田町『十勝ワイン』の山幸(やまさち)とツバイゲルトレーベ、岩手県花巻市『エーデルワイン』のリースリングリオン、長野県塩尻市『五一わいん』のマスカット・ベーリーA、山梨県勝沼町『勝沼醸造』の甲州の4種。どのワインも実力派の生産者が、品種の特徴をしっかり表現していて、初めて日本ワインを飲むのにぴったりのワインだと思います。

500ミリリットルという、飲み切りサイズもいいですね。同時に白と赤を並べて飲めますし、料理とペアリングしやすいです。ラベルのデザインも目を惹きやすいと思いますよ。今後、西日本のワイナリーを扱ってくれるのを期待したいですね。

『J-CRAFT WINE』は現在4アイテムを発売中。

『J-CRAFT WINE』は現在4アイテムを発売中。

――ありがとうございます。最後にあらためて日本ワインの魅力と、読者へのメッセージを兼ねて日本ワインのたのしみ方を教えてください。

NORIZOさん 先ほど九州地方で台風に触れましたけど、降水量の多い日本はブドウの栽培には向いているとは言えません。しかしそうした困難な状況の下でも、多くの生産者が試行錯誤を繰り返し、人智を尽くして美味しいワインを造ろうとしている姿勢に感動します。

味わいについて言えば、食に寄り添う優しい味わい。ワインと料理が旨味で繋がるようなペアリングが体感できることでしょう。

日本ワインをよりたのしむためには、お気に入りのワイナリーを見つけて応援すること。ほぼ全国でワインは造られているので、まず出身地など自分にゆかりのある土地のワインを飲んでみてはいかがでしょう。

また旅行や出張で地方に行く機会があれば、目的地周辺のワイナリーを探して訪問するのもいいですね。こうしてご縁ができた“おらがワイナリー”を増やしていけば、日本ワインをより身近に感じて、たのしむことができると思いますよ。(了)


映画のお話から日本ワインの現在地など、NORIZO氏のインタビューはいかがだったでしょうか。ぜひ読者のみなさんも“おらがワイナリー”を見つけて、ワインライフをより豊かなものにしていただきたいですね。

<NORIZO氏プロフィール>
Webメディア『日本ワイン.jp』編集長を務めるほか、ワインのセミナー講師やイベントMC、ワインやワイナリーに関する撮影や動画制作を行う“ワイングラファー”としても活動中。

『Vin Japonais』

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ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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