福島県郡山市『ふくしま逢瀬ワイナリー』/豊かな果物の6次産業化で、福島県の農業の復興を目指す

福島県郡山市『ふくしま逢瀬ワイナリー』/豊かな果物の6次産業化で、福島県の農業の復興を目指す
出典 : 画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

東日本大震災で大打撃を受けた福島県の農業の復興に寄与するため、2015年に開業したのが『ふくしま逢瀬(おうせ)ワイナリー』。郡山市にはなかったワイン用ブドウの栽培に地元農家や郡山市と着手して、2019年春に郡山産のブドウで醸造したワインを初リリース。ブランディングにも注力していると聞き、訪れました。

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郡山市の里山に、2015年10月にオープン

緑の木立のなかに突如として現れるスタイリッシュな建物のワイナリー。

緑の木立のなかに突如として現れるスタイリッシュな建物のワイナリー。

新幹線が停車するJR郡山駅前から、タクシーで30分あまり。道路沿いに牧歌的な風景が広がる県道6号線を右折すると、目指した一般社団法人『ふくしま逢瀬ワイナリー』が、静かにたたずんでいました。ふだん抱いているワイナリーのイメージとは違う、建築雑誌のグラビアに登場しそうなクールな外観が印象的です。

ブドウを意識したのでしょうか、紫色を用いたロゴもお洒落。紫部分が福島県、白ヌキ部分は猪苗代湖なのだそう。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

ブドウを意識したのでしょうか、紫色を用いたロゴもお洒落。紫部分が福島県、白ヌキ部分は猪苗代湖なのだそう。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

出迎えてくださったのは、副代表理事でソムリエ資格を持つ大河原久尚(おおかわら・ひさなお)さん。
「郡山市の出身です。これまでの経験や培ってきた知識を活かして地元の役に立ちたい」と2年前に転職。ブドウ造りからブランディングに販売までワイナリーの業務全般に携わっています。

前職は東京の酒類専門商社に在籍した大河原さん。

前職は東京の酒類専門商社に在籍した大河原さん。

2015年の創業、民間ではなく一般社団法人、そして大河原さんの地元愛などから推察される通り、ふくしま逢瀬ワイナリーは2011年の東日本大震災からの復興を目的として誕生しました。
「三菱商事復興支援財団が、福島において風評被害を受けていた果実を用い、新しい農業の6次化事業を進めるために設立したのです」。

厳密には福島県の郡山市と財団が連携していて、市とワイナリーが地元の果樹農家をサポート。契約農家は栽培(1次)、ワインへの加工(2次)、販売・流通(3次)を行う6次化で農家を支援する一方で、ブドウなどの原料の供給を受けています。その原料を用いてふくしま逢瀬ワイナリーが、ワインを醸しているという仕組みです。

“フルーツ王国”と呼ばれ、果物の栽培で有名な福島。郡山市ではリンゴ、桃、梨は育てていましたが、じつはワイン用のブドウは栽培されていませんでした。2016年に販売されたワイナリー初めての商品は、近隣の会津若松市のブドウから造ったスパークリングワインだったのです。

「やがて郡山市内の農家でワイン用ブドウの植栽をスタート。現在は13軒の農家、併せて約7ヘクタールの畑でブドウを栽培し、2019年には“郡山産ワイン”をリリースすることができました」。
 今ではこの郡山産ワインのほか、会津若松産のワインや、福島県産のリンゴ・桃・梨からお酒を醸しているそうです。

ワイナリーショップの壁には、郡山市の契約農家のマップが。

ワイナリーショップの壁には、郡山市の契約農家のマップが。

契約農家のひとり菅野豊(かんの・ゆたか)さん。郡山の田園広がる丘陵地「喜久田町」でブドウを育てています。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

契約農家のひとり菅野豊(かんの・ゆたか)さん。郡山の田園広がる丘陵地「喜久田町」でブドウを育てています。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

充実した醸造設備。無料の見学ツアーも実施

清潔感あふれる醸造フロア。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

清潔感あふれる醸造フロア。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

設立に至る経緯などをお聞きした後は、ワイナリーのなかを案内していただきます。
2015年の完成とあって、まだどの設備も新しく、隅々まで手入れの行き届いたフロアはどこもピカピカです。とくにまばゆいシルバーの輝きを放っているのが醸造タンク。

「1000ℓと2000ℓが中心ですが、一番大きなものは5000ℓで、こちらは2基所有しています」。
さらに「収穫したブドウをすぐに仕込むことを心がけています」と大河原さん。
タンクを数多く所有し、しかもサイズのバリエーションがあると、臨機応変に対応が可能。時間のロスが減り、ブドウが劣化しないうちに仕込めるそうです。

また、1000ℓの小さめのタンクサイズは、契約農家の個人名を冠したキュベを仕込むのに適しているとか。まるでブルゴーニュのドメーヌのように、個人がブランド化されたワインができると、ブドウ栽培の励みになることは間違いないでしょう。

天井が高く明るい空間に、全29基合計53㎘のタンクが鎮座しています。

天井が高く明るい空間に、全29基合計53㎘のタンクが鎮座しています。

樽貯蔵室には、熟成の時間を待つワインが詰まった木樽が並んでいます。
「基本的にはフレンチ―オークですが、アカシア材の木樽も活用しています」。

新樽の清々しい香りに、成長中のワインの香りが重なります。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

新樽の清々しい香りに、成長中のワインの香りが重なります。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

現在ワインの醸造で重視しているのは、ブドウの風味を活かすこと。
「質の高いブドウが届いているので、ブドウの味をそのままワインにすることを心がけています。補糖や補酸は極力行わず、酸化防止剤の添加量も減らし、濾過も最小限に留めているんですよ」。

ワイナリーショップ内からは窓越しに、ワイナリーでは珍しい単式蒸溜器の姿も。こちらでブランデーやリキュールも製造しています。

ワイナリーショップ内からは窓越しに、ワイナリーでは珍しい単式蒸溜器の姿も。こちらでブランデーやリキュールも製造しています。

これで見学は終わりと思いきや、「外の畑も見に行きましょう」。
自社畑を持たず、契約農家にブドウ栽培を全面的に依頼しているふくしま逢瀬ワイナリー。でも見学者のために敷地の一角に畑を設け、郡山で栽培している代表的な品種を植栽しているのです。

栽培している品種は、下の画像に表記されていますが、注目は⑥の「オクセロア」。フランスのアルザス地方やドイツなどで育まれているブドウですが、あまり有名なものではありません。「オーセロワ」とも表記でき、ワイナリーのある逢瀬(=オーセ)町と音が同じと閃いて採用することになったそうです。

ワイン用ブドウ実証圃場

郡山市の契約農家で育てている代表的なブドウを確認することができます。

郡山市の契約農家で育てている代表的なブドウを確認することができます。

スタッフによるワイナリーの見学は、ショップの営業時間内で随時受け付けていて、所要時間は40分程度(原則5名以上の事前予約制)。数種類の試飲も付いて無料なので、訪れる機会があれば、ぜひ参加することをおすすめします。
※申し込みや問い合わせは、電話かメールで(記事の最後に掲載)。
※見学できる内容は、時期などによって異なります。

ブランディングを強化、ラインナップも多彩に

2年前にリブランドして、ラベルも刷新されました。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

2年前にリブランドして、ラベルも刷新されました。画像提供/ふくしま逢瀬ワイナリー

2016年の初リリースの約6年後に大きな転機が訪れます。その節目にワイナリーに加わったのが大河原さんでした。
「さらなる未来に向けて進むために、ブランドとラインナップを見直しました」。
そう、まずワインを造るというフェーズから、全国にアピールでき、福島の農業の本格的な活性化を目指す段階へと進んだのです。

その門出として、メインの「Vin de Ollage(ヴァン・デ・オラージュ)」のラベルを一新。このブランドの名称には、“自分の家”を意味する福島の方言“おらげ”が盛り込まれていますが、このラベルの変更は、より地元の人々が“おらげのワイン”に誇りと自信を持てるものにしたいという想いが込められているそうです。

「郡山市民にとっての“おらげのワイン”になりたいと、Vin と Ollageの間に家のアイコンを忍び込ませています」。

2年前に一新されたラベル。

2年前に一新されたラベル。

Vin de Ollageの略称であるVOが、ブドウの房に重なりインパクトがありますが、ここにも仕掛けが。それはボトルを回してのラベルの側面を確認すると分かります。

「郡山市のシルエットを回転させると、じつはブドウの房のような形になるんです。Oはこのワイナリーの位置を示しているんですよ」
ワイン会などでこのラベルの話を披露すれば、盛り上がってさらにワインが進むことでしょう。

側面を見ると「なるほど!」です。

側面を見ると「なるほど!」です。

さてここから、ラインナップを。試飲させていただいた“郡山産ワイン”からいくつか紹介します。

Vin de Ollage blanc 2021(ヴァン・デ・オラージュ・ブラン)

Vin de Ollage  blanc 2021(ヴァン・デ・オラージュ・ブラン)

アルコール12%/750ml(1980円)。

ワイナリーを代表する白ワイン。2021はシャルドネ100%ですが、年によって品種の構成は変わるそう。リンゴやオレンジ、白い花の香りに、岩塩のようなミネラル感。やわらかな酸味が特長的です。

Vin de Ollage auxerrois&chardonnay 2021(ヴァン・デ・オラージュ・オーセロワ&シャルドネ)

Vin de Ollage  auxerrois&chardonnay 2021(ヴァン・デ・オラージュ・オーセロワ&シャルドネ)

アルコール11%/750ml(2530円)。

先述したオーセロワとシャルドネのブレンド。レモネード、リンゴ、かりん、桃のような香り、イキイキとした酸が特長。心地よいほろ苦さもあって、食事に合わせやすいワインという感想です。

Vin de Ollage chardonnay 2021 Cuvée 菅野 豊

Vin de Ollage  chardonnay 2021 Cuvée 菅野 豊

アルコール12%/750ml(3630円)。

「サクラアワード」シルバー受賞。契約農家で紹介した菅野さんが育てたシャルドネ100%。リンゴや洋梨のような香り、アカシア樽での熟成に由来した複雑で厚みのある味わいに、蜜や栗のような余韻も。

Vin de Ollage merlot 2020(ヴァン・デ・オラージュ・メルロー)

Vin de Ollage  merlot 2020(ヴァン・デ・オラージュ・メルロー)

アルコール12%/750ml(2530円)。

赤からはメルローを。フレッシュなプラムやチェリーの香り。軽やかな飲み口ですが、やわらかくてしっかりした渋味も。この2020はメルロー100%、2021はわずかにブラック・クイーンをブレンドしています。※現在は2021ヴィンテージを発売(2640円)

道の駅のように、たのしめるワイナリーショップ

ワイナリーショップですが、ワイン以外のアイテムも充実。

ワイナリーショップですが、ワイン以外のアイテムも充実。

リーズナブルにテイスティングができ、気に入ったワインを購入できるのがワイナリーのショップですが、こちらには福島県の名産品などもずらり。お土産品のセレクトショップ的な雰囲気が漂っています。

「このあたりには道の駅のようなスポットがないので、ワイン以外の商品も取り揃えています。福島ならではのお買い物もたのしんでいただきたいですね」。

数多くのアイテムが、グラス350円~試飲が可能。

数多くのアイテムが、グラス350円~試飲が可能。

ノンアルもあるので、運転手の方もたのしめます。

ノンアルもあるので、運転手の方もたのしめます。

福島県産のリンゴを使ったシードルも美味。

福島県産のリンゴを使ったシードルも美味。

ワインと相性の良さそうなパンもありました。

ワインと相性の良さそうなパンもありました。

“フルーツ王国”らしく、様々なフルーツのジュースが人気です。

“フルーツ王国”らしく、様々なフルーツのジュースが人気です。

復興を目標に着実にステップアップしているふくしま逢瀬ワイナリー。醸造所や畑の見学はもちろん、買い物までたのしめてしまうスポットでもありました。ぜひ現地を訪問して、美味しいワインを飲み、特産品を買って、福島県を応援しましょう。

※価格などは取材時のものとなります(消費税込み)。

ふくしま逢瀬ワイナリー
福島県郡山市逢瀬町多田野字郷士郷士2
TEL/0120-320307(10:00~17:00)
info@ousewinery.jp
ショップ営業時間/火~金 11:00~16:00、土日祝: 10:00~16:00
ショップ定休日/月(祝日を除く)
アクセス/ JR「郡山駅」より車で約30分

ふくしま逢瀬ワイナリーの詳細はこちら

ライタープロフィール

とがみ淳志

(一社)日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート/SAKE DIPLOMA。温泉ソムリエ。温泉観光実践士。日本旅のペンクラブ会員。日本旅行記者クラブ会員。国内外を旅して回る自称「酒仙ライター」。

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