ホップとは? ビール好きなら知っておきたいホップの基礎知識

ホップとは? ビール好きなら知っておきたいホップの基礎知識
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ホップとはビールに苦味や香りを添える植物のこと。ビール造りに欠かせない原料ですが、クラフトビールの流行で新たな可能性に注目されています。日本でもホップ栽培に補助金を与える自治体があるほど。今回はホップのビール造りにおける役割、種類、クラフトビールとの関係について解説します。

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ホップとは、ビールの苦味や爽快な香りのもと

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そもそも「ホップ」とはどんな植物なのか解説します。

ビールの原料として使われるホップとは?

ホップは麦芽や水と並ぶビールの主原料のひとつ。どんな種類のホップを、どれだけの量、どんなタイミングで投入するかによって、ビールの味わいが大きく変化します。その意味では、ビールの味や香りを決定づける、“ビールの魂”ともいえるでしょう。

そもそもホップとは、アサ科カラハナソウ属のツル性の多年生植物の一種。時計回りにつるを巻きつけながら伸びていき、7〜8メートルほどの高さまで成長します。また、ホップには雄株と雌株があり、ビールに使われるのは受精していない雌株の果実の部分のみ。緑色の松ぼっくりのような見た目をしていて、その名前は「球花(きゅうか)」もしくは「毬花(まりはな)」と呼ばれることも。

ホップを収穫するときは、つるごとトラクターなどで摘み取って、球花のみを選別します。球花の花芯には、「ルプリン」と呼ばれる小さくて黄色い粒がたくさんついています。詳しくは後述しますが、この「ルプリン」がビール造りで大きな役割を果たすのです。

ホップは日本や世界の涼しい地域で栽培されている

ホップの栽培に適しているのは冷涼な気候です。

おもな栽培地として挙げられるのは、北半球ではドイツやチェコ、アメリカ、中国、南半球ではオーストラリアなど。近年ではニュージーランド産のホップも注目を集めています。

日本でも明治の初期に北海道で栽培が始められて以来、現在では約150軒のホップ農家があります。国内でもっともホップの生産量が多いのは岩手県。ほかには北海道をはじめ、青森県、秋田県、山形県などが今の日本の主要なホップの生産地です。

ホップの成分と、ホップがビールにもたらすもの

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ホップはビールにどのように作用するのか、詳しくみていきましょう。

ホップはビールに苦味と香りを付与する

ホップはビールに苦味や香りを与えるために用いられますが、その役割を担うのが、先ほど紹介した球花に含まれる「ルプリン」と呼ばれる器官です。

ホップが持つ苦味のもととなるのが、このルプリンに多く含まれる「アルファ酸」と呼ばれる成分。アルファ酸自体には、それほどの苦味はありませんが、熱することで「イソアルファ酸」に変化すると、爽快な苦味を発するようになります。

ちなみに、ビールの苦味の指標にBU(インターナショナル・ビターネス・ユニット)がありますが、これはアルファ酸の濃度を示したもの。イソアルファ酸となるアルファ酸が多ければ多いほど、ビールの苦味も増すということです。

一方でホップ由来のビールの香りには、前述のルプリンのなかの精油成分が関係しています。
ホップの精油にはミルセンやフムレンといった成分が含まれていて、これらがビール独特の爽快な「ホップ香」を生み出すのです。精油の成分や含有量は、ホップの種類によって異なりますが、いずれも熱に弱いことが特徴です。「ホップ香」のほか、酵母が生成する「エステル香」、モルト由来の「モルト香」が組み合わさることで、私たちがよく知るビールの香りができあがります。

ビールにホップ由来の苦味や香りが付与される工程

ビールの製造工程では、麦芽を糖化させて麦汁を作り、その麦汁を煮沸する工程でホップが加えられます。

煮沸の序盤にホップを投入すると、長時間にわたって煮込むことになるので、苦味が多く抽出されます。また、ホップの香りは熱によって飛んでしまうため、序盤に投入したホップの香りはビールにほとんどつきません。

一方、煮沸の終了間際のタイミングでホップを入れると、苦味はあまり出ず、香りが強く残るようになります。このように、ホップの投入のタイミングを変えることで、個性の異なるビールを造ることができます。

ちなみに、ホップはかつて、乾燥させたあとプレスしたものがビールの醸造に使われていましたが、輸送の際にかさばったり、保存中に成分が失われたりするため、現在は乾燥後に粉砕し、ペレット状に加工したものが使われています。

ホップには苦味と香りを付与する以外にも役割がある

苦味と香り以外にも、ホップには重要な働きがあります。
そのひとつがビールの泡持ちの維持です。

ビールを注ぐとできる泡は、麦芽由来のタンパク質に覆われていて、
それを補強するのが前述したホップの苦味成分、イソアルファ酸。イソアルファ酸が麦芽由来のたんぱく質と結合することで、ビールの泡の強度が増します。

また、ホップに含有されているポリフェノールは、過剰なたんぱく質を沈殿、分離させるのでビールが濁るのを防ぐ働きがあります。

そのほか、ホップには、睡眠鎮静作用や利尿作用、食欲増進、消化促進作用などがあるとされ、さまざまな薬理作用の研究が行われています。カビなどの微生物を防ぐ抗菌作用を持っているともいわれていて、123種のハーブの成分を用いて実験を行ったところ、ホップの成分がもっとも抗菌力が強かったとか。

ホップを使ったビールの歴史

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ホップはこれまで述べてきたように、ビール造りにおいて欠かせない重要な原料ですが、じつは、ビールが誕生した当初から使用されていたわけではありません。ビール造りにおいて、ホップの使用が主流となるのは、ヨーロッパでは中世の終わりとされる15世紀以降のこと。紀元前3000年ごろから始まるビールの歴史からみれば、ごく最近のことといえるでしょう。

ホップが台頭する以前のビール造りでは、苦味や香りをつけるために、各種の香草や薬草、香辛料などを組み合わせた「グルート」を使用していました。グルートの配合方法は「グルート権」と呼ばれる独占販売権を持つ者だけが独占していて、大きな財源となっていたそう。

それほど重視されていたグルートですが、次第にその地位をホップに奪われていきます。

そもそも最初にホップが注目されたのはその殺菌・防腐効果で、
12世紀ごろには、ドイツのライン河畔にあるルプレヒトベルグ修道院において、ドイツ薬草学の祖であるヒルデガルドが、ホップについての詳細な記録を残しています。たとえば「「IPA(インディア・ペールエール)」はホップを大量に使ったビールとして有名ですが、これも歴史をひもとくと、イギリスからインドにビールを運ぶ際、保存性を高めるためにIPAの原型となるビールにホップを使ったことがきっかけだということがわかります。

こうしたホップを使ったビール造りが広まるにつれて保存性のみならず、香りや味わい、泡持ちでも、グルートを用いたビールよりも優れていることが判明します。そして、1516年にドイツで制定された「ビール純粋令」では、「ビールは大麦、ホップ、水のみを原料とすべし」と定められるほどに。

現在の日本でも、酒税法におけるビールの定義は「麦芽、ホップおよび水を原料として発酵させたもので、アルコール分が20度未満のもの」などとされていて、ホップの存在がビール造りに必要不可欠なものとなっています。

ホップの種類は世界中で200以上!

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数多いホップの種類のなかから代表的な品種を紹介します。

穏やかな香りと苦味の「ファインアロマホップ」

ビールに使われるホップは世界に200種類以上あるといわれていて、大きく3つに分類できます。そのうちのひとつが、「ファインアロマホップ」。ほかのホップに比べてやさしい香りを放つのが特徴で、苦味が穏やかで上品な味わいのビールに仕上がります。

代表的な品種には、以下のようなものがあります。
◇ザーツ
原産地はチェコのザーツ。穏やかで気品のある香りとクリーンな苦味が特徴です。
◇テトナング
ドイツ原産。上品な香りとマイルドな苦味をもたらします。「テトナンガー」と呼ばれることもあります。
◇ヘルスブッカー
ドイツ原産。ハーブやスパイスを思わせる香りが口に広がります。

豊かな香りづけに使われる「アロマホップ」

ファインアロマに比べて香りが強いのが特徴。

◇カスケード
アメリカを代表するホップ。グレープフルーツのような柑橘系と松やにの香りを持ちます。

◇シトラ
原産地はアメリカ。強いシトラスの香りとともに、トロピカルフルーツを思わせる香りをもたらします。

◇ソラチエース
北海道空知でサッポロビールが開発したアロマホップ。ヒノキやレモングラスのような特徴的な香りを醸し出します。海外のクラフトビールによく使われています。

苦味の強いビールを造る「ビターホップ」

ファインアロマホップやアロマホップに比べて苦味が強いのが特徴。

◇シムコー
強い苦味のあるホップで、パッションフルーツなどのアロマも香ります。

◇マグナム
原産地はドイツ。苦味だけでなく、高貴な香りを持つのが特徴です。

ホップが彩るクラフトビールの個性

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醸造家ごとの個性が試されるクラフトビール造りでも、ホップ選びが大きなカギを握ります。

各ブルワリーでは、めざすビールの味わいを描きながら、ホップの種類、量、投入するタイミングなどを試行錯誤して、独自のレシピを設計しています。1種類のホップだけを選んで使用するのでなく、複数の品種を組み合わせることもあるとか。

近年、クラフトビールの世界では、ホップを大量に使用するIPAが人気ですが、先述の「ソラチエース」や「ネルソン・ソーヴィン」をはじめ、柑橘(かんきつ)系の香りが特徴な「シトラ」や「カスケード」、トロピカルフルーツを思わせる「アマリロ」など、独特の香りをもたらすホップを使用したビールが人気を集めています。一方で、ビターホップを用いて、あえて苦味を利かしたクラフトビールも造られるなど、それぞれの個性を競い合っています。

日本でも国産ホップを使うクラフトビールが人気を集め始めています。
その背景にあるのは国産ホップの多様化です。1990年代半ばから国内でのホップ農家の多様化が進み、現在では国内各地にホップを栽培する畑が全国に広がりつつあり、国産ホップの品質も年々向上。日本産ホップ推進委員会が企画・後援し、各地で勉強会やイベントを開催する「フレッシュホップフェスト」に参加するブルワリーの数は、初回2015年の12から、2019年には90になったそうです。

さらにホップで町おこしを行う自治体も登場しました。たとえばホップの一大生産地である岩手県遠野市では町おこしの一環としてホップにちなんだイベントや商品開発が積極的にされています。

最近では機能性食品としても注目される「ホップ」ですが、ビール造りでもクラフトビールの流行に乗って、新たな可能性が見出されています。日本でも国産ホップを使ったビールに人気が集まっているので、この機会にぜひチェックしてみてくださいね。

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