たのしいお酒.jp

我らお酒にひと言あり 六酒仙、かく語りき

吉田類の居酒屋 各駅停車の旅

Vol.3 三軒茶屋『銘酒居酒屋 赤鬼』

いい酒場は実のところ、どこの街にもあるものだ。
今夜、飲みたいお店が見つかっていないのだとしたら、
それはあなたが、いい酒場の見つけ方を知らないだけかも。
日本中の酒場を渡り歩いてきた吉田類さんが、
各駅停車で旅するように街々の名店を訪れ、飲み、食い、語らいながら、
街へ、店への愛を語ります。

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第1回が門前仲町、第2回は浅草ときて、さて「吉田類の居酒屋各駅停車の旅」第3回目は、どの駅へ繰り出すか? そう考えた時、真っ先に挙がったのは赤羽だ。闇市を発端とした一番街商店街などは、さすが酒場の聖地という場所で数々の名店がひしめいている。いや、上野だって赤羽に負けないほど昼酒が楽しめる店があるし捨てがたい。と、くれば新橋も酒場の数では負けていないか。それに下町酒場を攻めるなら京成線沿線という手もある……。正直、候補となる駅はいくつも頭に思い浮かんだ。
が、今回はあえて王道を少し外し、三軒茶屋という街をチョイスした。というのも、そこには「下町的要素の色合いが濃かった門前仲町、浅草とは異なった、街と酒場を紹介しておきたい」という想いが少なからずあったからだ。

三軒茶屋というと、若者の街というイメージが強く、住みたい街ランキングでは必ず上位に名を連ねる街だ。渋谷駅からも電車で10分とかからない、商店街や飲食店が充実しているなど、その理由はいくつもあるが、ライブハウスやシアターなどがあって文化的な香りも仄かに漂わせ、路地裏を歩けば隠れた名店に出会ったりできる、三軒茶屋ならではの一種独特な雰囲気がこの街の人気を支えているのではないだろうか。
それだけではない。意外かもしれないが、実は三軒茶屋は、戦後にバラックが建ち並んだ街であり、闇市から復興してきた歴史を持つ。その名残りを垣間見るのが世田谷通りと玉川通りに挟まれたいわゆる“三角地帯”だ。エコー仲見世やゆうらく街などの商店街からなり、入り組んだ路地を歩けば今もレトロな商店がそこかしこに。オシャレなイメージが強い三軒茶屋だが、僕に言わせればそうではない。新旧がない交ぜになったカオスな雰囲気こそ三軒茶屋の魅力。この街が人々を惹きつけてやまない理由だと思う。

そんな三軒茶屋には、この連載をやるにあたり、どうしても紹介しておかないといけない酒場がある。それが三角地帯の一角にある「赤鬼」。旨い日本酒と出会える、東京でも有数の名酒場だ。

▲三軒茶屋、三角地帯の名店。たどり着くまでの路地の一迷いもまた、楽しい。

まずは何が素晴らしいかと言えば、日本酒のラインナップだ。常時80種以上をセレクトする日本酒の中心となるのは生酒。つまり、“火入れ”をしていない酒である。なぜ、生酒にこだわるかといえば、店長の中村健さんはこう教えてくれる。
「生酒が多いのは昔からのこの店のこだわりなんです。火入れは、ある意味、流通のための品質管理のために行う製造工程。やはり、その酒が持ちうるポテンシャルを最大限に味わい、楽しむなら、火入れをしていないフレッシュな状態の方がいいですよね」

▲写真上・日本酒専用のセラーには、全国の蔵元の生酒がずらり。写真下・店長の中村健さん。中村さん自身も大の酒好きだ。

昭和57年の創業当時から日本酒専用のセラーを用意し、品質管理を徹底。しっかりと日本酒と向き合ってきた店だからこそ、蔵元からの信頼も厚い。そのいい例が、「亀泉」。そう、僕の故郷、土佐の地酒だ。実は赤鬼ではここでしか飲めない「亀泉」の限定銘柄があるのだ。これについても中村さんは熱く語ってくれる。
「これは発泡系のにごり酒なんですが、同じようなタイプの中でも、とてもデリケートな品質なんです。酵母が生きているから瓶内二次発酵も進み、非常に扱いが難しい。とにかく管理が行き届いていないと瓶が割れたり、破裂したりしてしまうことだってあるんです。だから酒蔵もあえて問屋や酒屋を通さない。昔から生酒にこだわったこの店だけに直接卸してくれている日本酒なんです」  そう言って目の前で一升瓶から猪口に注いでくれる。鼻をくすぐるのは芳醇で果物を思わせる甘く上品な香り。口に含めばその香りはさらに主張し、発泡のピチピチとした飲み口の中にフレッシュな米の旨みと甘みが広がっていくのが分かる。

▲写真上・「赤鬼限定」のラベルが眩しい亀泉。写真中上・赤鬼の銘酒リスト。ほとんどに「生」のマーク。写真中下・リストに載らないお酒も多数。写真下・酒が旨いと、やはり自然と笑顔が出る。

そして、限定酒といえば「赤鬼」では、あの「十四代」も忘れてはならない。今ではプレミアが付くほどの稀少酒となった「十四代」だが、「赤鬼」はその全銘柄をラインナップする店としても知られている。しかし、それだけで終わらないのが「赤鬼」。ここでは「十四代」のPBまで用意しているのだ!
PBとはプライベートブランドのこと。簡単にいえば、「十四代」の酒蔵である高木酒蔵が「赤鬼」だけのために専用タンクで醸した酒である。しかも、原料米となるのは兵庫県特A地区の山田錦で、それを40%まで磨いて醸したハイスペック。これ以上、あえて書くまでもないだろう。その味は、ぜひこの店で体験してほしい。

▲「十四代」を順番に飲んでいく、なんていう贅沢な楽しみ方もここならでは。

さて、こう酒が旨いと、やはり気になるのが合わせる肴だ。だけど、その心配はいらない。この店は何を頼んだって旨い。一品一品、ハズレがないし、何よりも酒飲みの心を掴んだメニューばかりが揃っている。「お腹を満たすものではなく、お酒に寄り添う料理」というコンセプトも憎いではないか! 刺身ひとつとったって、どれも天然の活け締めにこだわった魚が並び、あるいはアジ唐揚げ土佐酢かけは、低温と高温の油で2度揚げして中骨まで食べられるよう手間をかけて作っている。海の幸だけでなく山の幸もあり、産直の珍味も粒揃い。この日食べたカツオの塩タタキも、故郷を思い起こさせる味だった。表面を炙った後、氷水につけないあたりもさすが。土佐流の作り方でハートを鷲づかみにされた。

▲写真上・この日のおすすめ、カツオの塩タタキ。写真中上・絶妙な焼き加減。まずはすだちを絞って、カラシでいくのもいい。写真中下・酒飲みにとってたまらないメニューばかり。写真下・とうもろこしの天ぷらも、甘みが凝縮されてなんとも旨い。

もちろん、ここで触れた日本酒や肴については、「赤鬼」の魅力のごく一部に過ぎない。スタッフの日本酒に対する向き合い方、屋号にある“居酒屋”としての在り方やそこに込めた矜恃など、実際足を運んでこそ分かることがいっぱいある。日本酒に酔いしれ、肴を味わい、心を解し、それらに気付いた時、「赤鬼」が名店と呼ばれる、本当の意味が分かるのではないだろうか。

▲店のスタッフや、常連客と語らいながら、心地よく酔える雰囲気もまた、格別。
今月、訪ねた店
銘酒居酒屋 赤鬼
東京都世田谷区三軒茶屋2-15-3
03-3410-9918
17時30分~23時30分(土は17時~23時30分、
日・祝は17時~23時)
無休
三軒茶屋周辺で、もう一軒。
味好亭

なかみち街の一角に暖簾を掲げ、50年以上になる老舗。昔からのここの名物といえば、焼き鳥と釜飯だが、メニューの中で目に留まるのが鹿肉を使ったジビエ料理。常連客でもあるハンターが仕留めた蝦夷鹿の料理にホッピーを合わせてみても面白い。

東京都世田谷区三軒茶屋2-11-2
03-3418-5650
17時~23時
不定休
なかむらや

用賀駅の南口に直結するビル地下にある和酒が楽しめるダイニング&バー。日本酒は常時約40種、焼酎は約100種を取り揃え、イタリアン出身のシェフが腕を振るう料理とともに楽しめる。スタッフに尋ねれば、レアな日本酒も登場する!

東京都世田谷区用賀2-41-11 平成用賀ビルB1F
03-3707-1162
17時~23時
祝日休
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吉田類

よしだ・るい 高知県生まれの酒場詩人。酒場や旅をテーマに執筆活動を行うほか、イラストレーター&エッセイストとしても活躍。BS-TBS『吉田類の酒場放浪記』ほか、TVでも活躍。主な著書に『酒場歳時記』(NHK出版)、『東京立ち飲み案内』(メディア総合研究所)などがある。俳句愛好会『舟』を主宰。