たのしいお酒.jp

我らお酒にひと言あり 六酒仙、かく語りき

藤原ヒロユキの、あったら毎日通っちゃう、妄想ビアバー
「アメリカのバー」

ビールは偉い。とにかく偉い。美味しいビールはそれだけで正義だし、飲めればひとまずは幸せだ。だけど、美味しいビールは、出来ればそのビールの雰囲気に合った、理想的な空間で飲みたいもの。日本ビアジャーナリスト協会代表、ビールの伝道師こと、藤原ヒロユキさんが、今月も美味しいビールをいただきながら、理想のビアバーについてあれこれ思案を巡らせます。単なる妄想なのか、それとも、実在する店なのか…夢とうつつを行き来する(?)、妄想ビアバー、開店します。

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今月の妄想ビール…『ORVAL』

ベルギーの修道院、オルヴァルから生まれるからビールの名前は『オルヴァル』。
敷地内にある「マチルドの泉」にはある伝説が。
歴史を遡って、1076年、この地を訪れた伯爵夫人が、亡き夫の結婚指輪をこの泉に落としてしまうがその指輪を鱒がくわえて上がってきた。喜んだ婦人が修道院の建設に資金を提供。
指輪が出てきたときに叫んだとされる「ここは黄金の谷!」から、フランス語で、ヴァレドオール、英語で言えばゴールデンヴァレーを意味するオルヴァルという名となった。
そんなロマンティックなおとぎ話を持つビールは、
爽やかな入口から、一気に広がるドライなホップの強烈な酸味と苦み。
そこに甘みと果実味が絡み合う複雑さで、熟成させるとよりその複雑さが増してくる。
マチルドの泉が作り出す、物語とビール。そうなればやはり、
藤原さんは、またあるお店のことを思い出したようで…

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また、通いたくなるバーを見つけた。

と言っても、その店へちょくちょく通うことは……、残念ながら容易ではない。
なぜならば、その店はアメリカ中部の町の旧市街地を再開発したエリアにあるからだ。
かつて倉庫だった建物を利用しているその店の外壁は赤いレンガで、ひとつずつ微妙に色味が違い、角がすり減っている。長い年月が過ぎた証である。賑わった時代があり、さびれた時期が訪れ、いままた注目を浴びるエリアになった。

店に足を踏み入れると、倉庫跡ならではの高い天井と無骨な梁や柱が目をひく。質実剛健なイメージだ。
店のど真ん中に、真っ赤な円形のカウンターがあり、タップが並んでいる。カウンターの中央には円柱のタワーがあり、そこからもタップが突き出している。タワーの上部は電光掲示板で、本日のビールのラインナップが回転しながら表示される。近代的で、コクピットのようでもある。外観とのギャップが楽しい。
カウンターには席はなく、ビールを受け取った客はおのおのの席に戻り、ゆっくりと時を過ごすのがこの店のやり方だ。

ビールタップはすべて地下室に繋がっている。
地下室は部屋全体が常に13℃に保たれていて、さらに、人が中を歩き回ることができるサイズの大きな冷蔵庫が3つある。もちろんそれぞれの温度が違う。
ピルスナーやライトラガーは6℃、ヴァイツェン用に8℃、ペールエールやIPAのための10℃だ。リアルエール(カスクコンディションエール)の樽や瓶内熟成ビールは地下室にそのまま置いてある。カウンターでサーブされ、飲み始めるころには1℃ほど温度が上がり、適温になる計算だ。

銘柄のセレクトをしているチーフバーテンダーのエリックは「日本のクラフトビールはここ数年、目覚ましく成長しているね。これからもどんどん仕入れていきたいと思うよ」と語ってくれた。
ならば1杯目は、エリックが最近「お気に入り」というジャパニーズ・クラフトビールをお任せでオーダーした。すると、グラスが桝の中に入って出てきたではないか!
「去年、日本の醸造所をいくつか訪ねたんだ。で、その旅行中にIZAKAYAで日本酒を飲んだらこのスタイルで出てきた。これは面白い! と思ってね。ビールでも真似できるんじゃないかって」とエリックは笑った。

クリアーで明るい琥珀色。きめ細やかな泡もかすかにベージュの色調を持つ。ホップとモルトの香りが上品で、日本人の奥ゆかしさを表現している? 口に含むとホップの苦みにモルトの甘味が重なり、後口には日本酒の吟醸香に似た香りが顔を表す。旨い。
日本の良さを海外で知らされる。そんな気分である。
2杯目は何にしようかな?

「東海岸のビールはどーだい? かなりクラウディーで面白いよ」とエリック。
うん、ならばそれにしよう。この店のセレクションならば間違いない。初めての銘柄でも安心だ。この店にはいつも発見がある。

だからまたこの店に通いたくなるのだ。

  • 今月の妄想ビール…

    『オルヴァル』

    330ml

    鮮やかさと深みを併せ持つオレンジの色合い。見た目どおりの爽やかさな口当たりから、 すぐにドライホッピングによる個性溢れる、苦味、酸味、甘みが絡み合います。

    詳細はこちら
今回、取材にご協力いただいたお店…
クラフトビア マーケット 神保町テラス店
東京都千代田区神田錦町3-22 テラススクエア1F
TEL:03-5244-5288
月~金:ランチ 11:30~14:00
ディナー17:00~23:30
土:16:30~23:30
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藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。