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我らお酒にひと言あり 六酒仙、かく語りき

「”みなも”のビア・バー」

ビールは偉い。とにかく偉い。美味しいビールはそれだけで正義だし、飲めればひとまずは幸せだ。だけど、美味しいビールは、出来ればそのビールの雰囲気に合った、理想的な空間で飲みたいもの。日本ビアジャーナリスト協会代表、ビールの伝道師こと、藤原ヒロユキさんが、今月も美味しいビールをいただきながら、理想のビアバーについてあれこれ思案を巡らせます。単なる妄想なのか、それとも、実在する店なのか…夢とうつつを行き来する(?)、妄想ビアバー、開店します。

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今月の妄想ビール…『コエドブルワリー  COEDO  瑠璃-Ruri-』

江戸の台所として栄えた埼玉県川越(通称:小江戸)を拠点に、ドイツの技術と日本の水と職人技術を元に、世界最高水準のビール造りを目指すブルワリーの、色の和名(瑠璃、伽羅、紅赤など)を与えられた定番ビールの中でも最も爽やかな味わいのピルスナータイプのビールがこちら。

誰もがおいしく、しかも、しっかりとした飲みごたえを感じながらいただける一杯。

さて、藤原さん、「瑠璃」をグビグビ飲んでいるうちに、またなにか思いついた様子…
今月のお店は、本当にあるんですか?それとも…?

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 また、通いつめたくなる店を発見した。

 広い窓の向こうに“みなも”が見える。それが海なのか湖なのか大きな河なのか……。申し訳ないが、内緒である。この店は秘密の隠れ家にしておきたい。

ただ、それは池や小川といった小さな水ではなく、広大でゆったりとした水面(みなも)であるということは伝えておこう。流れの速いせせらぎや岩に砕ける荒い波も悪くはないが、穏やかな水面がただただ広がっている風景を見続けていると優しく落ち着いた気持になっていく。

広く大きな窓はバーバックにあり、カウンターに座るとみなもが借景となる。幅の広い窓枠が額縁効果となって、風景を絵画のように切り取っている。
昼下がりは、空に雲が流れ、みなもに船が走る。夕暮れ時は空とみなもがオレンジに染まり、夜には星がみなもに映って揺れる。
すべての時間に顔がある。

タップは5本。ピルスナー、ウィート(ヴァイツェンだったりホワイトエールだったりアメリカン・ウィートだったりする)、ペールエール、IPAそしてスタウト。
ボトルは、W-IPAやバレルエイジドのハイアルコール系、セゾンの大瓶も用意されている。

正午前ならキリッとした淡色系のピルスナー、昼下がりにはホップとモルトの優しいペールエール、黄昏時にはスパイシーなセゾンの大瓶を開け、夜のとばりが下りたころには、こうばしい香りのスタウトを飲もう。ホップの苦味が鮮烈なW-IPAか、フルボディのハイアルコールビールってのも捨てがたい。夏の夜ならば、ここであえての“淡色ピルスナー戻し”という手もある。

ピルスナーは、ビールを飲むときのスターターと思われがちだが、それは“思い込み”に過ぎない。
透明感のある黄金色に純白の泡、ホップの上品な香りと苦味、爽快な炭酸の刺激……。そんなピルスナーには、どんな時間や場所も受け止める実力がある。オールマイティーでユーティリティーなのだ。
とはいっても、ピルスナーが最も得意としている季節は初夏から初秋に違いない。そのうえそこが、みなもの見える場所ならば言うことなしだ。

チェコのピルゼンで1842年に生まれたピルスナー。その後、ドイツはもとより世界中で造られるようになり、世界で最もポピュラーなビア・スタイルとなった。今では世界中のビール会社がピルスナーを造っている。それだけに、玉石混淆ともいえる。造り手に取っても難しいビールなのである。シンプルでピュアな味わいだけに、粗が隠しづらい。ごまかしがきかないのだ。美味しいピルスナーは、スッピン美人の気高さのように、貴重なしろものなのである。

もちろん、この店のピルスナーは目利きのマスターが厳選し、最高の状態で提供される。一点の曇りもなく絶品である。グラスを傾けると、水辺で女神に出会えた気分に浸れる。
だからまた、この店に足を運びたくなるのだ。

今月の妄想ビール…
『コエドブルワリー』

COEDO 瑠璃-Ruri-

333ml

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藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。