たのしいお酒.jp

我らお酒にひと言あり 六酒仙、かく語りき

ビールは偉い。とにかく偉い。美味しいビールはそれだけで正義だし、飲めればひとまずは幸せだ。だけど、美味しいビールは、出来ればそのビールの雰囲気に合った、理想的な空間で飲みたいもの。日本ビアジャーナリスト協会代表、ビールの伝道師こと、藤原ヒロユキさんが、今月も美味しいビールをいただきながら、理想のビアバーについてあれこれ思案を巡らせます。単なる妄想なのか、それとも、実在する店なのか…夢とうつつを行き来する(?)、妄想ビアバー、開店します。

  • facebook
  • twitter

小麦麦芽を贅沢に使用、天然水で仕込み、ミネラル豊富なビール酵母をろ過せず仕上げた、
自然志向のビール。銀河高原ビールブランドを代表する1本。美しい青のボトルと洗練されたラベルデザインで、女性のファンも多い。

銀河高原ビールらしい、独特の香りと味わいを
楽しんでいるうちに、 藤原さん、イメージが膨らんできた様子...

__

また、通いつめたくなる店を発見した。

山手線の某駅から徒歩7分。決して“駅前”ではない場所にその店はあった。

生ビールのタップ(ビールサーバーの注ぎ口)が3本。10人程度が並べるL字型の立ち飲みのカウンターと丸テーブルが3つ。満席で約20人といったところだ。1日に3回転すれば60人。各2パイント(473ml×2)飲むとして、1日に約60リットル弱のビールが飲み干される。さらに、グラスに注ぐ前に垂れ流す分や洗浄のときに捨てざるを得ない分を考えれば、どの樽も3日以内にカラになり、新しい樽に変えることができる計算だ。いたずらにタップの本数を増やしても、ビールの回転が悪く、劣化してしまうので、タップ3本は、店の大きさにちょうどいい本数である。

生ビールはもちろん樽冷式。樽冷式とは、生ビールの樽を冷蔵庫の中で冷やし、そこからそのままパイプをつなぎサービングするシステムだ。 一般的な飲食店では、樽は冷やさず、瞬冷式サーバーと呼ばれる装置で一瞬にビールを冷やしてサービングしている。銀色の生樽が野積みしてあるような店がそれである。よく“生ビール冷えてます”なんて暖簾を見かけるが、樽を冷やしていないので、生ビールは冷えていない。正確には“生ビール、一瞬にして冷やします”が正解である。

樽冷式は大きな冷蔵庫が必要なので敬遠されがちだが、ビールのクオリティーを守るには樽冷式のほうがいいに決まっている。この店の大きさで樽冷式を選ぶのは、キャパシティ的にリスクもあるだろうが、その選択はビールを愛している証とみた。

店の従業員は、オーナーマスターが独り。キャッシュ・オン・デリバリーでテーブルチャージは無い。客となれ合うこともなく、かといって不愛想でもない。蘊蓄(うんちく)を語ったり、自分好みのビールを押しつけることもないが、こちらからの質問には丁寧に答えてくれる。そしてそれは、実にわかりやすく的確である。

客が「今日は午後から急に暑くなったねぇ」なんて言えば「オレンジを使ったアメリカの小麦ビールが入荷したんですよ」と爽やかなビールをさりげなく勧めるし、「締めの一杯、なににしようかな……」とつぶやく客には「ベルギーのダークストロングエールで、珍しいのがあるんですけどいかがですか?」と飲みごたえのあるビールを提案してくれる。

クオリティーの良いビール、ほどよい距離感のマスター。ビアバーに必要な2つの要素がこの店にはある。だからまた足を運びたくなる。

今月の妄想ビール…
銀河高原ビール

小麦のビール
シルバーボトル

300ml

詳細はこちら
  • facebook
  • twitter
藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。