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熱い人と、冷たいビールの物語 クラフトビール物語

Vol.6 老舗酒蔵ならではのビール造りに迫る 基本があるから挑戦できる。フラッグシップから県産原料のバリエーションまで、多彩なアイテムを貫く、強くしなやかな哲学。

今や全国で作られるようになったクラフトビール。マイクロブルワリーと呼ばれる小さな醸造所から、コンビニにも商品が並ぶ大手まで、その一つ一つにビール造りの哲学があり、ビールに込めた愛がある。一杯のビールの味わいに詰めこまれた、造り手たちの熱い、熱い情熱の物語を追いかけて、日本各地のブルワリーをめぐります。

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定番だけでも13種類という宮下酒造のクラフトビール。伝統と根気強い姿勢をしっかり守りながらの日々の挑戦が生んだアイテムは、長く愛される定番から、地元のフルーツとのコラボに、酒造メーカーならではの挑戦と多彩。待ちきれない様子の藤原さんとともに、特徴的な5種をテイスティングしていこう。

▲待ちきれない。とはいえ、やはりテイスティングに臨む前は表情が一変。ビールに向かい合う藤原さん。

まずは藤原さんは、ビール日和の青空の下で飲んだ『J-CRAFT 優爽のヴァイツェン KIBI OKAYAMA』の感想をここでももう1杯。

「ホップのキャラクターが後から心地良く感じられますよね。苦味は強くなく、重くもない。奇をてらうことなく、ちゃんとヴァイツェンで、その上で名前の通り優しくて、爽やかです」

伊藤さんも、もう1杯。「アメリカ産のホップを使っているのですが、これを前面に出しすぎるとヴァイツェンらしさがなくなってしまうのではないかと考えていました。そういっていただけるとうれしいです」

▲ 色、香り、バランス…爽やかさと優しさの秘密をテイスティングからも探る藤原さんと、改めてじっくり向き合う伊藤さん。

宮下酒造のクラフトビールの取り組みを長らくウォッチしてきた藤原さんも、この新しく生まれたビールに込められた真摯な仕事ぶりと挑戦の意欲を評価。「1995年、いわば日本のクラフトビールの一期生。そこからずーっときっちりした仕事をしているというイメージを持っていましたが、それを再認識しますね。では、次は、フラッグシップのピルスナーといきましょうか」。

▲ ピルスナーの成り立ち、フラッグシップゆえの悩みと喜びを聞く藤原さん。

アロマを楽しみ、そしてゴクッと、喉を鳴らす藤原さん。
「結構、ホップのスパイシーな香りがしますね。それがいい刺激になりつつ、実にきれいなビールですねぇ」
心地良い喉越しを味わいつつもう一口。その様子を嬉しそうに見る伊藤さん。「昔はもっと苦いテイストで、苦味の数値でいうと25程度。今は20台を切ります」。

「そのあたりは地元の方の要望だったりするのですか?」と藤原さん。そう、岡山市内の飲食店には『独歩』のロゴがよく見られ、タクシーに乗って「宮下酒造へ」といえば、「あぁ独歩の」と運転手さんが答える。地元に根付いたクラフトビール。これも老舗酒蔵といいうバックボーンと、地元で愛され続けるために真摯に取り組んできた結果だろう。

伊藤さんは、このフラッグシップであるピルスナーについては特に注意するべき点があるという。
「地元で愛されているとともに、お歳暮やお中元などで全国にもよく出荷されているビールですから、ロット差を少なくしなければいけません。原材料の取り扱いや、酵母の差がでないように慎重に取り扱っています」

藤原さんは膝を打つ。「そう! いい意味で変化したり、狙って変えることはいいのだけれど、お客様の期待に応える、裏切らないという姿勢は大切です。クラフトビールだからブレていいなんてことはないんですよ。
品質としてブレてはいけないものがある。それが宮下酒造さんの象徴的なこのピルスナーというわけですね」。
よく冷えたビールを飲みながら、熱く語る藤原さんだ。

▲ 日本酒業界で注目を集める『雄町』を贅沢にも精米歩合60%まで磨き、副原料に使った、岡山の日本酒の世界 とビールの世界を融合させた挑戦。

続けて藤原さんは、岡山の酒造好適米である『雄町』を使った『雄町米ラガービール』へ。
「軽やかだけど、苦味が印象的なビールですね。これぐらいのバランスは好きですね」という第一印象の藤原さんに「こちらもピルスナー同様、一度苦味を下げたんですが、こちらは要望もあって元に戻しました。雄町米自体はふくよかさが良さで、透明感のある旨みが特徴かと思います。藤原さんは、このような米を使うようなビールというのはいかがでしょう?」と伊藤さんは逆に質問を。

▲ 雄町の挑戦に思わず笑顔。

藤原さんの見解は明快。「否定的に考える必要は無いと思う。その他の原料を入れるのはどうか?という風潮はあるけれど、米は日本人の大切なもの。他の和の素材もそうですが、ある種、日本ならではのアドバンテージがありますし、これからもがんばって取り組んでいただきたい」

▲ 食事とあわせるビールシリーズも真剣にテイスティング。ここにも挑戦が。

『牡蠣に合う白ビール』や『ウナギに合う黒ビール』といった季節品や、『マスカットピルス』や『ピーチピルス』といった岡山のブランドでもあるフルーツとのコラボレーションも、酒造りのベースがあるから、ブレない。

『マスカットピルス』を飲んだ藤原さん。「マスカットの香りがしっかり前面に出ていますね。細心の注意をしていい香りを出されていることが伝わってきます。米も果物も、地域の特産を原料に生かすのは面白い。これは有意義なことだと思いますよ。これもブレない品質への挑戦が同時にあるから、ちゃんとしたものが出せる」。

▲マスカットピルスの可愛らしさとほろ苦さに、ここでも納得の笑顔。

お二人の会話の熱気は続くが、そろそろお時間。藤原さんからの最後の質問。「僕自身は、伊藤さんが日本酒など他のお酒とビールをともに手がけている良さを感じましたが、ご本人はどうですか? 大変ですか?」

伊藤さんはここで、緊張がほぐれたのか柔らかい表情に。
「苦しみというよりも、まあ、毎日忙しいなあ、という愚痴ぐらいはあるという感じでしょうか(笑)。相乗効果は確かです。ビールをやっていて日本酒に生かす。日本酒にをやっていてビールに生かす。実地での勉強にはなります。教科書には書いていないことですし」

藤原さんは頷きながら伊藤さんにエールを贈ります。
「全体的にきれいなビールでした。基本に忠実な部分と、トライしていく部分がうまく融合している。誰しもが思うビールらしさの枠を逸脱することなく、しかし、基本に甘んじることなく挑戦する姿は実に興味深い。ベーシックな酒造りの哲学であったり、老舗酒造会社の基礎体力もしっかりあるからこそでしょうね。これからもぜひ他のお酒との相乗効果を生かしてがんばってください!」


宮下酒造

J-CRAFT 優爽のヴァイツェン
KIBI OKAYAMA

330ml

岡山の穏やかな気候が表現されたような優しい口当たり。そしてすぐに訪れる爽やかさ。フルーティで甘い香りを感じながら、余韻は軽やかに。ヴァイツェンらしさをちゃんと守りつつ、誰からも愛される端正さと明るさが表現されている、飲み飽きず、たのしく飲み続けられる1本です。

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宮下酒造

J-CRAFT 華ほの香 優爽のヴァイツェン KIBI OKAYAMA

330ml

熟したバナナを思わせるフルーティで甘い香りと、クセのない優しい味わい。クセの無い、すっきりとしたうまみが広がり、ついもう一杯頼みたくなります。

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宮下酒造

雄町米ラガービール

330ml

老舗酒蔵らしい作品。宮下酒造の吟醸酒と同様、精米歩合60%まで贅沢に磨き上げた地元岡山の酒造好適米「雄町」を副原料に使用。ラガーらしい強めの苦味でも、雄町の特徴であるふくよかな透明感とともに、気持ちのよいバランスが感じられます。

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宮下酒造

牡蠣に合う白ビール

330ml

牡蠣によく合うとされるフランスの白ワイン・シャブリを意識した辛口の白ビール。大麦麦芽に小麦麦芽を加え、酸味と芳醇さを醸しだしています。ほどよく熟した柑橘系の香りと爽やかな風味も牡蠣によく合います。

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藤原ヒロユキ

今回の旅人 藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。