たのしいお酒.jp

熱い人と、冷たいビールの物語 クラフトビール物語

Vol.1 ベアード・ブルーイング『J-CRAFT』造り手の性格があらわれる。だからこそ難しいペールエール。ブライアン社長のビール造りの信念とは。

  • facebook
  • twitter

某日、ビールの伝道師・藤原ヒロユキさんが静岡・修善寺のクラフトビール醸造所「ベアード・ブルーイング」を訪れた。創業から15年余りが経ち、日本を代表するクラフトビール会社に成長した同社は、全国で自社ブランドの「ベアードビール」を販売し、多数のファンを抱えている。

そして今回、新たなクラフトビール「J-CRAFT ペールエール IZU SHUZENJI」を開発。家庭でも手軽に本格的なクラフトビールが楽しめるよう、これまでになかったペールエールを造り上げた。訪問記の後編では、初試飲した「J-CRAFT」の味わい談義から、ブライアン・ベアード社長のクラフトビール造りにかける思いに、藤原さんが迫る。

ブライアンさん:これが、今回造った「J-CRAFT」です。ぜひ飲んでみてください。

藤原さん:では、さっそく、いただこうと思います。グラスを傾けると、ホップの豊かな香りが広がりますね。(ゴクリと味を確かめるように一口飲んで)うん、そんなに苦みはないが、ホップの味わいはしっかりしている。これはありそうでなかったビールですね。

柑橘系のフルーティーな香りの中に、ホップ由来のスパイシーさもある。まるで花束をもらったようなインパクトがあり、スムーズな喉通りでもある。満足感の高いビールだと思います。

ブライアンさん:ありがとうございます。僕も、この出来上がりには満足しています。

藤原さん:(再度グビリと味わいながら)これは、素晴らしいビールですね。ブライアンらしいビールとも言える。僕は「ペールエール理論」を唱えているんだけど、新しいブルワリーができたと聞けば、まずペールエールを飲んでみる。それで実力がわかるんです。

ブライアンさん:ペールエールには造り手の性格がよく表れますからね。ペールエールはアルコール度数が中間で、ホップもモルトもバランスがいい。味も香りも極端なところがない。スタウトはロースト風味が苦手な人はダメだし、IPAはホップの苦味がダメだったら飲めない。でもペールエールは、ビールが好きであればみんな大丈夫。誰にとっても飲みやすいビールです。

藤原さん:突出したところがない代わりに、バランスを保つのが難しい。造り手の力量がそのまま出てしまう。だからペールエールが美味しい造り手は信用できるんですよ。

ブライアンさん:シンプルなビールだからこそ、退屈だったらすぐバレますからね。ペールエールは伝統的なビールだけど、伝統がわからなければ、新しいことに挑戦もできないと思っているんです。

藤原さん:僕はイラストレーターでもあるんだけど、ペールエールが下手なブルワリーというのは、デッサンが下手な絵描きと同じ(笑)。基礎がないままに新しいことをやろうとしても、うまくいかないものです。その点、ブライアンは本当にビールをよく勉強していますよね。

ブライアンさん:いいペールエールが造れないのに、新しいビールは造れないですからね。

藤原さん:ブライアンはどうして、日本でクラフトビールを造っていこうと思ったの?

ブライアンさん:日本のビール文化は明治維新からで、長い歴史があるわけじゃありません。でもビールが好きな人はたくさんいる。そんな人たちに向けて、これもビール、あれもビールだよって伝えたいと思いました。世界にはラガー以外にも、本当にたくさんのビールがある。ビールの世界はもっと広いと知ってもらえれば、もっとビールが好きになるはず。だから僕たちのようなクラフトビールの会社には、チャンスがあると思ったんです。

藤原さん:なるほど。では、ブライアンにとって「ベアードビール」とは、どんなビールなのか聞いてもいいかな。

ブライアンさん:そうですね。僕はただビールを造っているわけじゃないんです。ビールを通じて、一生懸命に僕のストーリーを語ろうとしているわけです。僕という人間がここに詰まっている。それは間違いありません。

藤原さん:ブライアン・ベアードという人間の表現でもあると。

ブライアンさん:良いブルワリーのビールというのは、絶対に造り手の味が出ているんですよ。人間が表現されていないクラフトビールは、あくまで観光客を呼ぶためのものでしかない。具体的にどういうことか説明するのは難しいんですが、味見をしたらそれがわかります。

藤原さん:確かに、ベアードビールはほかには真似できないビールだと思います。ホップも生にこだわって造っているように、製法も独自のものを徹底していますよね。

ブライアンさん:僕は父親が歴史学者だったこともあって、伝統的なことが大好きなんです。だから、できるだけ伝統に近いビール造りをしていきたい。それが製法にもこだわるひとつの理由です。もうひとつあるのは、僕がビールを勉強しているときにクラフトビールにハマって、たくさん飲んだ中で何が好きか突き詰めて考えたら、「最高のビールだ」と思えたのはほとんど生ホップだったんです。

僕が造るビールには個性を出していきたい。でも、原料を加工すればするほど、個性は失われていきます。僕の目標はブルワリーとして、ビールの個性を最大限に引き出すこと。だから手間暇はかかるけど、生ホップにこだわっているわけです。

藤原さん:でも、生ホップじゃないビールが嫌いなわけじゃない?

ブライアンさん:そうです。ほとんどのビールは生ホップじゃありません。そういうビールも大好きです。生ホップを使っていないことを批判したいわけじゃなく、生ホップにこだわることが、僕のブルワリーとしての理念というだけのことです。

藤原さん:それもビール造りがブライアンにとっての「表現」だからですよね。

ブライアンさん:お客さんに良いビールを届けるためには、まず自分がインスパイアされる造り方にこだわらないといけない。もちろん、最終的な目標はお客さんに喜んでもらうことですよ。でも、お客さんはひとりひとり好みが違う。お客さんを意識しすぎてしまうと、結局は中途半端なビールになってしまう。万人受けなんてつまらないと思うんです。

だから、僕たちはたくさんの種類のビールを造ります。これもある、あれもある、全部ある。そうすれば、どこかに好きなものがあるはずです。それでもひとつも好きになれるビールがなかったら、僕がすごく下手か、ビールがそもそも好きじゃないかのどっちかです(笑)。

藤原さん:2014年から醸造所が修善寺に移転したわけですが、どうしてこの土地を?

ブライアンさん:広さはもちろんですが、土地にこだわったビール造りをしたかったんです。アメリカはクラフトビール醸造所がたくさんあるんですが、各地で昔ながらのビール造りが復活しつつあります。地元で小規模で、原料も現地のものを使っている。僕が90年代にビールについて勉強していたときは、そういう取り組みはまったくなかった。でも、今はそういう造り方が当たり前になりつつあります。

だから僕らも修善寺を選んだのです。土地の井戸水を使い、無農薬で育てた原料を使えば、誰にも真似できないビールが生まれる。僕はビールによって、僕という人間のストーリーを語ろうとしているのだけど、この醸造所がある土地のストーリーも語ろうとしているわけです。

そのとき、僕が造るビールは完全に僕を超えたものになります。僕が明日いなくなったとしても、ベアードビールは残っていく。自分の表現というだけでなく、もっと普遍的なスピリッツを表現していきたいと思っているのです。

藤原さん:まったく仰るとおりです。これから日本も、もっと地域に根ざしたビール造りをしていく必要があると思います。

ブライアンさん:90年代に地ビールブームと言われましたが、僕らがやろうとしていることはブームじゃない。継続性がなければ意味がないわけです。「とりあえず、ビール」だけじゃなくて、日本酒にもワインにも負けないくらい、飲みごたえがある、面白い、頭も刺激する、大人の飲料を造っていきたいのです。

藤原さん:先ほど工場内を案内してもらったとき、「ビール造りを4K仕事に変えていきたい」と言っていましたよね。「きつい、汚い、危険」だけじゃなく、「かっこいい」仕事にしたいと。

ブライアン:そうです。ビール造りは確かに大変です。でも、満足できるビールができたとき、こんなに楽しい仕事はないと思っています。

藤原さん:これからもどんどん4Kを追求して、素晴らしいビールを造り続けていってほしいですよ。

ブライアンさん:ありがとうございます。とりあえず、1杯やりましょうか(笑)。

   

前編と後編を合わせてご覧になりたい方はこちらから

ベアード・ブルーイング

J-CRAFT ペールエール IZU SHUZENJI

330ml

ブライアン・ベアード社長が「全く新しいものができた」と誇る、
フルーティーさとスパイシーさを併せ持つ万能型ペールエール。
本文中でブライアンさんが語る通り、和食にもしっくりくる香りと味わい。
低温輸送の導入により、ブルワリーの新鮮な味わいをそのまま楽しめるのもポイント。6月より全国で順次発売。

詳細はこちら

ベアード・ブルーイング

J-CRAFT 華ほの香
ペールエールIZU SHUZENJI

330ml

ベアードビール最大の特徴である、摘みたてのホップを乾燥・冷凍し、
貯蔵タンクに投入する「ドライ・ホッピング」という技法を採用して創った
ビール。「J-CRAFT ペールエール IZU SHUZENJI」同様、低温輸送の
導入により、ブルワリーの新鮮な味わいをそのまま楽しめる。
7月より全国で順次発売

詳細はこちら

ベアード・ブルーイング その他オススメビール

ベアード・ブルーイング

黒船ポーター

330ml

詳細はこちら

ベアード・ブルーイング

わびさび
ジャパンペールエール

330ml

詳細はこちら
  • facebook
  • twitter
藤原ヒロユキ

今回の旅人 藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。