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第6回 秋田県・秋田清酒

第6回 秋田県・秋田清酒 原点は、米と水と情熱。秋田の秋は、清々しい酒の季節。

「実ははじめての東北なんです」という東さん。秋田の清々しい秋風を感じながらゆっくり田園を歩く。

島根・松江での初めての酒蔵見学のあと( 第5回 『李白酒造』 )、日本酒の世界に強く興味を持つようになったタレントの東美樹(ひがしみき)さん。次にもっと知りたいと考えたのが、米と水。そう、日本酒の大切な原料について。

向かったのは、新米の収穫に沸き、酒造りの季節が始まった秋田県大曲。出羽丘陵に囲まれた肥沃な土壌と、豊富で清冽な湧水があり、農業や酒造りに適した土地といわれている。

蔵人としての白衣、日本酒の伝道師としてのスーツの両方を自然に着こなす伊藤社長。老舗の伝統と大曲らしい酒を守りながら、さまざまな挑戦を続ける。

大曲を散策後(その模様は動画で!)いよいよ酒蔵へ。東さんを迎え入れてくれたのは、100年以上の歴史をもつ『出羽鶴』、『刈穂』に加え、1994年からスタートした『やまとしずく』などのブランドを展開する、秋田清酒株式会社の伊藤洋平社長。まずは、「水」からご案内いただいた。

東さんは井戸を見て、「注連縄(しめなわ)などもあって、とても神秘的でおごそかな雰囲気がありますね」と一言。

最初は、酒蔵に入ってすぐ、正面で出迎える仕込み水の井戸。こちらは『出羽鶴』に使われているものだ。「よろしければ飲んでみますか?」という伊藤社長に東さんは笑顔。

神聖な儀式を体験しているかのように、緊張しながら水を飲む東さんだが、一口飲むと表情が緩み、「口当たりがとても柔らかいです。丸みがあって、清々しい…」という言葉とともに眼を閉じる。

伊藤社長は笑顔で答える。「尖っている酒が、この水で柔らかく、キメ細やかにまとまります。もともと秋田の水は軟水なのですが、その中でもこの井戸の水はとても柔らかい。奥羽山脈に降る雪や雨が、山の地層をゆっくりと通ってくるからなんです。『出羽鶴』のまろやかな味わいは、この水だからこそ生まれるんですね」。

「産湯にも味噌汁にも。私はこの水で育ったようなものですね」という社長に、東さんは「社長のお肌がきれいなのはそのおかげなんでしょうか?」。美容、健康面でも興味を持ったようだ。

「水によってお酒は変わるんですね。あ、もうひとつの『刈穂』は、この水ではないのですか?」と東さん。「はい。刈穂はここから車で15分ほど離れた場所に蔵があって、使う水も違うんですよ。そちらは天然のミネラルを多く含む、やや硬水。コクがあって、味わい深い酒に仕上がる水なんです」という伊藤社長の話に興味津々の東さん。このあと、『刈穂』の水も味わうことに。

後に訪問した『刈穂』の酒蔵と、その庭で沸き続ける美しい水。一口飲んだだけでも『出羽鶴』の水との違いは歴然。軟水の秋田において、貴重な硬水。

伊藤社長によれば「蔵を2つ造って、2つの違う水で造ってみよう。すると、酒造りにおもしろい変化があるんじゃないか? という発想から生まれたもの」とのこと。水という宝物。その土地の水を知ることで、その土地の酒をもっとたのしく味わうことができる。これを存分に感じた東さん。次に米蔵、精米、洗米、蒸米という一連の米に関わる仕事にご案内いだく。

ちょうど新米の収穫の時期を迎え、米蔵には続々と酒米が運ばれてくる。秋田が誇る美山錦、秋田酒こまちなどの県産米から、県外の出羽燦々、山田錦、雄町、五百万石まで、多種多様な種類を使うのも「2つの蔵、2つの水に加えて、米のバリエーション、磨き方といろいろな組み合わせで酒の可能性を探っていきたい」(伊藤社長)というあくなき探究心があるから。

続々と集まってくる米。これでもまだまだ序盤戦。この玄米が磨かれていく。

そして幸運にも、今季初の「洗米」、「蒸米」に立ち会うことができた。東さんは初めての体験。
正確な時間を見計らい、一気呵成に水を払う作業もあれば、慎重に、米を壊さないよう水に浸す作業もある。25年目のベテラン、10年目の中堅、そして4年目の若手という3人の職人が、鮮やかで力強く、見事なチームワークで酒米を洗っていく。

洗われた、というよりも清められたといいたくなる秋田酒こまち。「穢れのない深雪のような白さ」と東さん。

スタッフ総出で行われた今季初の蒸米、そして緊張感溢れる室(むろ)。確かに、神事、祭事のように、張り詰めた空気の中にも、祝祭の熱気が放たれる。

米を選び、磨き、水とともに一体化し、そして熱を加え、いよいよ酒となる準備に入る。その一連の米に関わる作業を見つめ、東さんが感じたのは…。

「頭に浮かんだ言葉は、『清い』。水もお仕事も、すべてが清められている気がするんです。すべてが神事のようで、緊張感があるのですが、美しく、不思議に癒されます。パワースポットに来たような気持ちです」

代々受け継がれている秋田清酒の酒造りの基本は「和醸良酒」。蔵人同士の真剣勝負から生まれる結束を和とし、飲む人に幸せな和が生まれるような美味しい酒を造ることを意味するスローガンだ。

清々しい気分を味わい癒された後は、テイスティング。『出羽鶴 純米吟醸』と『出羽鶴 松倉』。同じ出羽鶴の水を使うが、純米吟醸は、秋田酒こまちを55%精米、松倉は大曲の松倉地区でのみ収穫された無農薬あきたこまちを全量使用。精米歩合は60%。東さんはテイスティングすると驚きの表情を浮かべた。

「お米の種類、磨き方でこれだけお酒って変わるんだ、というのを実感できます。純米吟醸のすっきりと鮮やかななおいしさ。松倉からにじみ出てくるお米そのものの力強さと旨み。共通するのはあのいただいた水のやわらかさ」

米の香りが美しく花開く瞬間。神事のごとき仕事を見た後だけに格別。

水、米、そして探究心。風土と蔵人の情熱を思い浮かべながら。それもまた至福の時。現地でその水を飲み、秋風にたなびく稲穂を見ながらの1杯となれば無論、格別だ。

東さんの旅は、大曲の郷土料理と、蔵人の情熱が詰まった『北の醸し家 純米吟醸生酒』などのお酒を楽しむ夜へ。その様子は、後編で。

精米した後に出る米粕。実はこれが、大曲の誇る、もうひとつの文化につながっていくのだが…。動画と、後編でチェック。

秋田清酒

北の醸し家 純米吟醸生酒
1800ml

料理を引き立てるなめらかで引き締まった香味とのど越しが特徴。秋田の風土ならではの長期低温発酵で米の旨みを醸し出します。

秋田清酒

蔵しぼり生酒 風の奏鳴曲(ソナタ) 純米吟醸
720ml

グラスを傾ける楽しみを感じさせるフレッシュな香りと口当たり、料理の味わいを引き立てるなめらかで引き締まった香味とのど越しが特徴。

秋田清酒

刈穂 吟醸酒 六舟
720ml

地場の酒米を丁寧に磨き、独自の中硬水で醸した淡麗で、きめ細かな旨味をのせた吟醸酒です。
伝統の六つの酒槽じっくりと搾りました。

秋田清酒

出羽鶴 松倉
720ml

無農薬あきたこまちを全量使うという意欲作。米本来の力強さ、生命力、旨みを引き出すことに注力し、秋田の米の魅力、大曲の土地の豊かさを感じられる1本に仕上げられています。

今回の旅人 東美樹

ひがし・みき 福岡県出身のタレント、WOWOW「WOWOWぷらすと」などのエンターテイメント番組をはじめ、旅番組などへの出演でも活躍中。海外への留学経験から英語も堪能で、海外ミュージシャンへのインタビューも難なくこなす。オーガニック料理ソムリエの資格を有し、ヨガや乗馬、ダイビングを愛するスポーツ好きの一面も。BSフジ「スーパーフォーミュラ」2017年ピットレポーター。レギュラー出演中※第1戦~第7戦まで生中継。