旨い酒処に、旨い肴あり 日本まるごと 地酒×地肴
第3回 青森県 八戸酒類さん

第3回 ウミネコと、海の恵みと、うまし酒と。本州北端の賑わいの町、八戸へ。

日本酒の造り手を訪ね、当地の旨い日本酒と肴を味わうこの連載。第3回は、本州の北の端、青森県の八戸へ。230年続く老舗蔵元「 八戸酒類 」で誕生した新顔の日本酒をはじめ、三陸の美味と絶景が待ち受ける、一泊二日のショートトリップだ。

太平洋に面して600km余り続くリアス式海岸。その北端、青森県の八戸で、この夏新しい日本酒が誕生した。「ねこのうたたね」と名付けられたその酒を造るのは、天明6(1786)年創業の「八戸酒類」。寒冷な気候と美味しい水を生かした寒造りで、長く日本酒造りを続け、日本画家・横山大観書き下ろしの筆文字も美しい「八鶴」などの銘酒で知られる、青森県を代表する蔵元だ。旨い酒があると聞けば行かずにいられない! と、日本酒好きのモデル・中林美和さんが旅に出た。

夏の日差しから逃れるように、東京駅から東北新幹線に乗り込んで3時間。八戸でローカル線に乗り換え、まずはウミネコの繁殖地として天然記念物に指定されている 蕪島(かぶしま) を目指す。

途中、八戸の中心街、本八戸駅や、朝市で有名な陸奥湊駅を通り過ぎ、蕪島の最寄り駅、鮫駅に到着。鮫駅は、諸説あるが江戸時代に貿易港、漁港として栄え現在の八戸の発展のもととなったエリアで、文字通り多くの魚が交わる場所であったため、この名が付けられたと言われている。

鮫駅前には鮫のアタマのモニュメントが。中林さん、食べられつつも笑顔。

毎年春に数万羽が飛来してこの地で産卵し、夏の終わりに南方へ飛び立っていくというウミネコは、その数3?4万羽! 「こんな小さな島に何万羽もいるなんて信じられない! ミャーミャーっていう鳴き声の大合唱もすごいですね」と中林さんもびっくり。

蕪嶋神社の大鳥居。“島”とは言うものの、1942年に埋め立て工事が行われ、本土と陸続きになっている。

羽毛の色が違う雛を守るように地面にうずくまったり、一斉に飛び立ったり、青い空と赤い鳥居によく映える無数の白い鳥の群れはとにかく壮観だ。本土と陸続きになった蕪島。赤い鳥居から続く階段のその先には、かつて天照大神の娘・市杵嶋姫命を祀った蕪嶋神社が建っていたが、昨冬火災があり社殿が焼失。 これから3年をかけて再建される予定だという。「13世紀に創建された由緒ある神社だと聞きました。お参りできなくて残念です」。

写真上・数えきれないほど多くのウミネコが夏の終わりまでこの地で過ごす。写真中上・雛を守る親鳥。縄張り争いか、ケガをしている雛も。写真中下、下・風に合わせて、一斉に飛び立つウミネコたちが青空に映える。

続いて向かうは鮫角(さめかど)岬。太平洋に張り出す岬の突端に位置する、葦毛崎(あしげさき)展望台へ登っていく。

「三陸復興国立公園」の一部でもあるこのエリアには、緑が美しい天然芝や、ローズヒップの別名で知られるハマナスなど、季節によって様々な植物が群生。日の出や日の入り、海面を照らす月の光景も美しく、国の名勝にも指定されている。さらに海岸沿いに5kmもの遊歩道散策が整えられており、青い海を眺めながらの散策にもうってつけだ。

とにかく気持ちのいい景色が続く。

たくさん歩いて八戸の自然に目一杯触れたあとは、いよいよ夜ごはん。日暮れの八戸中心街へ戻り、たぬき通り、みろく横丁、花小路など、ネーミングも楽しい横丁がいくつも連なるエリアをそぞろ歩く。赤提灯や縄のれんを冷やかしつつ、料理の匂いに、酔客のざわめきに惹かれつつ、鷹匠小路(たかしょうこうじ)に立つ「 肴町のわが家 」を目指す。

2003年、みろく横丁の八戸屋台村から始まったこの居酒屋には、八戸の家庭料理が食べられると遠方からも客が訪れる。笑顔が素敵な女将・貝吹憲子さんの明るく優しい接客も嬉しい人気店だ。座敷やテーブル席もあるが、やっぱり厨房に面したカウンターが特等席。

写真上・女将の貝吹憲子さん。カウンターに座る客とのトークを楽しみながらも、手際よく調理を進める。写真下・「八戸を存分に楽しんでくださいね」と、女将自らお酌してくれた。

まずは一杯、とお酒を頼めば、出てくるのはやっぱり八戸自慢の「八鶴」の、お店専用のボトルに詰められた本醸造生貯蔵酒。「華想い」「華吹雪」をはじめとした、青森県産の酒造に向く良質な米と、地下100メートルから汲み上げる清冽な軟水を使用して作られる“うまし酒”「八鶴」の中でも、穏やかな口当たりで飽きのこない一本として、女将が選んだこのお酒。なのだが、コップに注がれた冷酒の下に何やら敷かれている。

「あれ? これは…おせんべいですか?」とたずねてみれば「戦後の貧しかった時代、酒屋さんが、せんべいをこうして皿代わりに敷いて、つまみとしても食べられるように出してくれていたと聞きました。父や祖父、もっと上の世代の昔話だったけど、自分の店を出す時に復活させようと思ったんです」とのお答え。

写真上・コップの下に、せんべい皿。このあたりの名物のひとつ、「いかのすし」がお通しに登場。写真左下・八戸酒類の「八鶴」を一口いただいて、思わずこの笑顔。写真右下・コップの下に敷かれたせんべいはもちろん食べられる。お酒の染みた部分がなんとも言えぬ旨さ!

せんべいの皿しかり、明治時代から愛されているという “八戸せんべい汁”しかり、“かっけ”や“ひっつみ”などの郷土料理しかり、地域の味や風習を現代に伝えて、地元の人たちには懐かしく、外から来た人には新しい体験として楽しませてくれるのだからたまらない。

写真上・このあたりでは、せんべい汁専用のせんべいがスーパーなどで普通に売られている。写真中・バリバリと割って、鍋に入れる準備。写真下・こちらがせんべい汁。煮込むとせんべいがうどんやもちのような食感に。

日本酒に合わせて出される料理も、ウニ、ホヤ、イカなど旬のものから、マンボウ刺身や焼いたサメカレイなど珍しいものまで、文句なしに美味しい、地物の肴を揃えている。

「私が作れるのは、自分が地元で食べたものと、子どもに食べさせてきたもの。日本料理、八戸料理というより、本当に家庭料理なんですよ」と語る女将とのおしゃべりも楽しくて、今夜もついつい杯を重ねてしまった中林さん。

八戸酒類のお酒の予習(?)はばっちり、ということで後編では実際に酒蔵に伺って、杜氏さんに「八鶴」や「ねこのうたたね」についていろいろお話いただきます。お楽しみに。

女将と、せんべいで乾杯! ごちそうさまでした。

八戸酒類

八鶴の純米酒
720ml

青森県産酒造好適米「華想い」と「華吹雪」を使用し米の旨味と酸のバランスが良くとれているスッキリとした飲み口の純米酒。

八戸酒類

ねこのうたたね 純米吟醸酒
1800ml

青森県産米「華吹雪」を使用。含み香が高く喉越しの良さが特徴。
食材の良さを引き出しつつ本来の日本酒の味わいを主張します。
※取扱い店限定 ※要冷蔵※飲食店専用商品

今月、訪ねたお酒が楽しめる店

肴町のわが家

青森県八戸市六日町32

0178-22-6484

17:00~24:00(日曜定休)

今回の旅人 中林美和

なかばやし・みわ 東京都出身、モデル。雑誌「CanCam」(小学館)の専属モデルを経て、様々な雑誌やTV、イベントなどで活躍。結婚、出産を経て現在は、雑誌「VERY」(光文社)やTVのナビゲーターなど多方面で活躍中。料理上手としても知られる。著書に、『おんぶにだっこでフライパン?4人育児の奮闘記?』(KADOKAWA)、『Mama Hawaii』(KKベストセラーズ)、『美和ママごはん♡』(セブン&アイ出版)などがある。