旨い酒処に、旨い肴あり 日本まるごと 地酒×地肴

第1回 石川県 福光屋さん
第1回 石川県・福光屋 新鮮な海の幸に、加賀野菜。″おいしい町″の、最古の蔵の酒造り。
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爽やかに光る、心地よい風が吹き渡る金沢。

このほど生み出された新しい日本酒を求めて、400年近くの歴史を持つ酒蔵〈福光屋〉を訪問中の中林美和さん。朝一番から蔵を案内して頂き、杜氏の板谷和彦さんをはじめとする蔵人たちの酒への愛情と情熱に触れるなど、日本酒づくりの深淵を体感中。

さて、酒蔵見学も終盤、いよいよこのほど造られた新しい日本酒『8:00pm 純米吟醸 生酒』と対面する時がやってきた。開発の試行錯誤と、仕込み期間を経て、この日初めて搾られた『8:00pm』、杜氏以外の誰も飲んでいないという透明の液体が、ガラスのお猪口に注がれる。

搾りたての『8:00pm』をいただけることに。ふわっと広がる日本酒の香りに、自然と口元がほころぶ。

中林さん、「いただきます! あ! すごくいい香りですね。こんな風に搾りたてのお酒を飲むのは初めて。これは酒蔵でしかいただけない特別な一杯ですよね」と目を輝かせる。

まずは一口、と『8:00pm』を口に含めば、清涼な香りが口を満たし、微かにピチピチと小さな泡が踊るような感触も。キレのある旨みが舌の上を転がり広がっていきます。「これは……言葉を忘れてしまうくらい美味しい!」(中林さん)

石川県で収穫された酒米・五百万石(ごひゃくまんごく)を55%まで磨き上げて使い、火入れをせずに、軽く、爽やかで飲みやすい生酒として仕上げた『8:00pm』。米の味わいの柔らかさ、酵母が生み出す華やかな香りの良さは、米と水だけで酒造りを続ける“純米蔵”〈福光屋〉のこだわりの結実だ。

「この搾りたてを味わえるのは蔵人の特権です。仕込んでからここまで約50日。味は、香りは、舌触りは、どんな酒に仕上がったか、と、杜氏としては緊張する一瞬ですが、美味しいと言ってもらえて嬉しいですね」と板谷さんもにっこり。

「夏野菜や魚介に合わせたくなりますね、なんだかお腹がすいてきました(笑)」と、料理好きならではのコメントを寄せる中林さんに、「まさに、食事と楽しんで欲しいという思いで造った酒なんです。初夏、夏、秋へと移ろう季節の食材を引き立てる、食中酒としてのバランスを意識して造りました。旬の食材とともにゆっくり味わっていただきたいですね。日本酒というのは、我々造り手の思いもさることながら、そこに飲む人の思いが重なって、より美味しくなるんですよ」と、応える板谷さん。

「はじめての酒造りの現場で、造り手さんたちの愛情と情熱をたくさん見せていただいて、ますます日本酒ファンになりました」と、中林さんも大満足。

酒造りの現場で蔵人の思いに触れ、日本酒の面白さ、奥深さを垣間見た中林さん。〈福光屋〉を後にして、近江町市場へと向かうことに。美食の街・金沢の台所とも呼ばれるプロ御用達の市場は目抜通りのすぐ近く、金沢駅から徒歩10分ほどの場所にある。
平日の日中にもかかわらず、地元の買い物客と観光客でごった返す場内をぐるりと巡った中林さんが足を止めたのは〈北川食品〉。数え切れないほどの野菜がぎっしりたっぷり盛られた圧巻のディスプレイに息を飲む。

「加賀太きゅうり、くわい、金時草……っていうんですか?珍しいお野菜がいっぱいですね」と女将さんに声をかければ、「これ、加賀野菜って言うの。江戸時代から金沢で栽培されてきた伝統野菜でね、東京には出回らないものも多いんですよ」とのお答え。加賀れんこん、加賀つるまめに金沢春菊など、現在15品目が登録されているという加賀野菜。味わいや調理法も教えていただき、真剣に購入を検討する中林さん。「まずは加賀太きゅうりの煮物を作ってみようかな?さっぱりとしていて暑い季節にも美味しそうだし、何より先ほどの日本酒にも合うと思う!」

写真上・市場の中でも一際目を引く、<北川食品>の圧巻のディスプレイ!写真下・加賀野菜について教えてくれた女将さん。女将さんが持っているのが金時草で、中林さんが持っているのが加賀太きゅうり。

食材の販売はもちろん、寿司屋、海鮮居酒屋にカフェまで40軒以上の飲食店が軒を連ねる近江市場の場内。鮮度の高い食材を楽しむなら、海産物専門店の店頭で供される、剥きたてのウニやホタテ、目の前で炙ってくれるカニも外せない。賑やかな呼び込みの声、観光客の声に囲まれながら、〈忠村水産〉でウニをいただきます!「う〜ん、トロける! 〈福光屋〉さんから『8:00pm』いただいてくればよかった……また飲みたくなっちゃいました」

〈忠村水産〉では、キャッシュオン形式で店頭でホタテやウニが食べられる。「お醤油いらないくらい、味が濃い!」(中林さん)

近江町市場で小腹を満たしたら、市街地をのんびり散策しつつ〈ひがし茶屋街〉へ。明治初期に建てられた町家が連なり、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されているこのエリア。城下町の空気をそのまま残した街並みは、歩くだけでも楽しいが、日本酒バー、加賀棒茶のカフェや金箔をまとったソフトクリームなどの美味しいもの、九谷焼の専門店など、金沢名物が集まった人気の観光スポットだ。

ひがし茶屋街の散策を楽しむ。メインストリートに、〈福光屋〉の直営店も発見。

金沢旅の最後は〈福光屋〉で教えてもらった金沢おでんの名店で夜ごはん。
実は金沢は、日本で3番目におでん屋の軒数が多い街で、人口ひとりあたりのおでん屋軒数で計算すると日本一というデータもある“おでんの街”なのだ。春も夏も、一年を通して、美味しいもの好きが足を運ぶ老舗おでん屋のうち、今夜は〈高砂〉へお邪魔します。

写真上・趣きのある佇まいの〈高砂〉。まだ街は明るいが、すでに赤ちょうちんに火が灯る。写真下・きれいにならんだメニューとおでん

香林坊の交差点近くの路地裏に立つ〈高砂〉は、昭和11年創業。開業時から継ぎ足しの出汁を使った関東風で、地元民にも愛される名店にして超有名店。17時ちょっと過ぎに暖簾をくぐると、そこにはすでにおでんを肴に日本酒を楽しむ常連さんたちの姿が。おでん種がぎっしり並ぶ鍋の目の前、カウンターの一角に座り、まずは〈福光屋〉の人気銘柄『黒帯』をオーダーする。

〈高砂〉の流儀は、並々コップいっぱい。カウンター越しに、一升瓶から器用に注がれるお酒とおでんの出汁の香りに、「もう待ちきれない! 早くいただきたい」と中林さん。

コップに並々と注がれた『黒帯』で喉を潤わせたら、おでんの注文へ。大将におすすめを伺いながら、名物の牛すじ、大根、金沢特産の車麩にばい貝、赤はべんという金沢ではよく見られる、赤い渦模様の入った蒲鉾のおでんをオーダー。じっくり煮込まれた熱々をパクリ。「お出汁がしみてて美味しい〜。日本酒との相性も、もちろん抜群!」(中林さん)

おでんと並ぶ名物の味噌カツをはじめ、一品系の肴も多く、何を食べるかあれこれ悩むのも楽しいひと時。中林さんが思わず歓声をあげたどて焼きに、魚の練り物を細く麺状に切ったものを出汁で煮た魚めん(ぎょめん)など、この地、この店だからこその美味が充実する。

写真上・黒帯と、大将おすすめのおでんたち。写真中・味のよく染みた車麩。「さっき〈ひがし茶屋街〉で買おうか迷ったんです。買っておけばよかった!」写真下・こしょうをふりかけていただく、どて焼き。くせになる味わい。

「美味しい土地の日本酒と美味しい土地の肴。こんなに美味しいものばかりの旅ってなかなかないんじゃないかな。つくづく、大人になってよかった〜って思います」と、ほろ酔い上機嫌の中林さん。「この『黒帯』も、〈福光屋〉でテイスティングした『8:00pm』も、食事によく合うから食べ過ぎないように注意しなくちゃ(笑)」とご機嫌に杯を重ねながら、金沢の夜を味わい、満喫したのでした。

金沢の日本酒に金沢の肴。「これ以上のマッチングはありません」と太鼓判。

   

福光屋

8:00pm 純米吟醸 生酒
1800ml

「”午後8時からの大人の楽しみ”を、若い世代のお客様にお届けする」をコンセプトに、石川県産酒米五百万石100%と、100年の時をかけて酒蔵に湧き出る『恵みの百年水』で仕込んだ辛口の純米吟醸生酒。
肉にも魚にも合うキレのよい旨味が楽しめる。

詳細はこちら

福光屋

黒帯 悠々 特別純米
1800ml

吟醸仕込みと純米仕込みとで、切れの良い芳醇な旨味を持つ辛口に仕上げ、さらに蔵内でじっくりと熟成させました。

詳細はこちら

今月、訪ねたお酒が楽しめる店

おでん 高砂

石川県金沢市片町1-3-29

076-231-1018

16:00〜22:30(日曜定休)

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今回の旅人中林美和

なかばやし・みわ 東京都出身、モデル。雑誌「CanCam」(小学館)の専属モデルを経て、様々な雑誌やTV、イベントなどで活躍。結婚、出産を経て現在は、雑誌「VERY」(光文社)やTVのナビゲーターなど多方面で活躍中。料理上手としても知られる。著書に、『おんぶにだっこでフライパン〜4人育児の奮闘記〜』(KADOKAWA)、『Mama Hawaii』(KKベストセラーズ)、『美和ママごはん♡』(セブン&アイ出版)などがある。