熱い人と、冷たいビールの物語 クラフトビール物語

Vol.7 「この土地で造る」というプライドを探る うまい!だけでは終わらない。恵みと匠をぎゅっと詰め込んだ 「オール宮崎」の挑戦を味わう。

今や全国で作られるようになったクラフトビール。マイクロブルワリーと呼ばれる小さな醸造所から、コンビニにも商品が並ぶ大手まで、その一つ一つにビール造りの哲学があり、ビールに込めた愛がある。一杯のビールの味わいに詰めこまれた、造り手たちの熱い、熱い情熱の物語を追いかけて、日本各地のブルワリーをめぐります。

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藤原ヒロユキさんと訪ねるクラフトビール物語の旅。今回は藤原さんが「初訪問です」という宮崎・延岡市へ。美しい水郷の町であり、モノづくりの町でもある延岡。まずは、青空の下、晩秋の風物詩である大瀬川の「鮎やな」を見学。獲れたての鮎の塩焼きを堪能すれば、はやる気持ちは抑えられない。そう、ビールを一杯。

▲延岡、大瀬川を歩く藤原さん。晩秋でも温かい風が吹く。
▲「鮎やな」の見学風景は動画にて。澄み切った清流に藤原さんも心洗われて…。

オーダーするのは延岡のクラフトビールメーカー『宮崎ひでじビール』の『太陽のラガー』。 「美味しいです! 炙られた感じがモルトの香ばしさとよく合いますし、ホップの香りと苦味が薬味のようになって、ますます鮎が進みますよ」(藤原さん)

▲ 素晴らしき相性の良さに喜びの表情!

生まれ育った土地も鮎の友釣りが盛んだったという藤原さん。
「きれいな水がなければ鮎は育ちません。そしてきれいな水があるところには美味しいビールもある。これは楽しみですね」

延岡の市街地から車で20分ほど、行縢(むかばき)山。ここに、宮崎ひでじビールはある。藤原さんが「カナディアンロッキーの森林か、それとも中国の山水画か…」と呟いたように、雄大な自然を感じる場所だ。ここで出迎えていただいたのはビール事業部・統括部長の梶川悟史さん。「ビール好きの間では、ここまで見学に着たら本当のビールマニア、と呼ばれる不便な場所までようこそ」と笑顔。

▲ 森林の中を歩き、行縢山の雄大な自然に抱かれた醸造所へ。

藤原さんがどうしてもここまで来たかった理由のひとつ。それは「オール宮崎」というキーワード。梶川さんが答える。
「ここから見える矢筈の滝。その地下水を使ってのビール造りはもちろんですが、大麦、麦芽、酵母から『J-CRAFT 日向夏の風』の果汁まで、すべて宮崎産です。そこが他の醸造所にはないひでじビールの強みだと思います」

「素晴らしい取組みですね。酵母や麦芽までここで造っているとは…」と藤原さんも感嘆。さらに藤原さんの心を動かしたのは、この「オール宮崎」が、ビール造りへの情熱だけではないということ。例えば大麦の栽培は、2011年の新燃岳の噴火による火山灰被害で、近隣の農家が甚大な被害を受けたことがきっかけ。もともと麦焼酎用に大麦栽培の技術を持っていた農家の皆さんに、新たな意欲を持って立ち上がってもらえれば…との地元愛と熱意がお互いを結び、ビール用の大麦栽培に踏み出した。この大麦を麦芽にすることもコストや手間を考えればなかなか踏み出すことはできないが、梶川さんは「原料の中で一番多いものですから、どうしてもやらなければいけないんです」と表情を引き締める。

▲宮崎産の大麦、オリジナルの麦芽専用機器に、酵母の研究所。「宮崎産」にこだわるからこその努力。

「ホップについてはまだ宮崎産が難しく、これは今後の課題ですが、必ずやりとげたいですね」という梶川さんに藤原さんも真剣な表情でうなずく。「農家の皆さんとともに歩む。オール宮崎は、原料の話だけではなく、そこに集う人たちのことでもあるんですね」(藤原さん)。

そこに集う人。そう、ここ延岡は、モノづくりの街。企業城下町として栄え、下請けの企業、町工場の実力も折り紙つき。そこでひでじビールは、大麦麦芽を造るための乾燥・加熱をはじめとする各種機器やツールまでも「オール宮崎」でいこうと考えた。ビールタンクも、延岡の鉄鋼業者、池上鉄工所が手がけた。

「この立派なタンクがオリジナル!?」と驚く藤原さん。池上鉄工所の松田専務によれば「私たちとしては初めての挑戦。お声がけいただいたときには、『無理だ、お断りしよう』と話していました。でもやってよかったです」とのことだが、梶川さんは振り返って微笑む。「いろいろ無理な注文もしましたが、最後の方はこちらが『もうこのぐらいの研磨で大丈夫ですよ』というと、池上鉄工所さんの方から『いや、これではダメです。もっと磨きます』と。さすが延岡のモノづくりの会社だなと感心させられました」

▲思いが結実したタンクの前で、藤原さん、梶川さん、池上鉄工所の松田さんの語らい。タンクにさりげなく掲げ られた池上鉄工所のロゴが美しい。

これも農家と同じく、宮崎、延岡の活性化であり、経済的にもみんなで潤っていこうという考え方が根底にある。実際、池上鉄工所とひでじビールのこの取り組みは、ビールの世界を超えて、モノづくりの成功事例、地域活性化の好例ということで県内はもちろん全国でも注目されているという。オール宮崎を細かく見ていくと、すべてがブランドでいうところのダブルネーム。ひでじビールの発想と情熱が生んだこの取り組みは、もう発注受注の関係性ではなく、同じ力を持った欠かせないパートナーの連合体。

藤原さんは、真剣な表情から笑顔に。
「水、原料、機械、タンク…それを結びつける思い。オール宮崎を目指したビール。早く味わいたくなってきましたよ」。
その言葉に梶川さんも笑顔。「はい。中でもこれぞオール宮崎というビールもご用意していますのでこの後はじっくり味わってください」。
その様子は後編で。

▲大瀬川で味わった鮎と、ひでじビールの「太陽のラガー」。さて後編ではどんな楽しみが。

ひでじビール

『J-CRAFT 日向夏の風』

330ml

生産量日本一を誇る宮崎県産「日向夏」の果汁を、ビールとともに熟成。爽やかで 優しい柑橘の風味とビールとしての味わい、ほろ苦さの抜群のバランスが特徴。 飲みやすく、食事にもあわせやすいエールタイプです。

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ひでじビール

『J-CRAFT 華ほの香 日向夏の風 HYUGA NOBEOKA』

330ml

柑橘特有のほろ苦さがあり、日向夏らしい爽やかな香りと甘みが弾ける、キレの良 い味わいです。

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ひでじビール

『太陽のラガー』

330ml

ひでじビールの定番である人気のビール。ジャーマンピルスナーの爽やかでキリッとした風味がたのしめます。自家培養酵母によるフルーティーさ、ホップの心地良い香味と苦味が、明るさと奥行きを与え、飽きずに飲み続けられます。

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(>後編へつづく)

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藤原ヒロユキ

今回の旅人 藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。