熱い人と、冷たいビールの物語 クラフトビール物語

Vol.4 黄桜酒造 清酒メーカーの伝統技術が光る 京都の酒蔵の創造性がクラフトビールに宿る。黄桜が手掛ける琥珀色のエールに秘められた開発者たちのこだわりに迫る。

今や全国で作られるようになったクラフトビール。マイクロブルワリーと呼ばれる小さな醸造所から、コンビニにも商品が並ぶ大手まで、その一つ一つにビール造りの哲学があり、ビールに込めた愛がある。一杯のビールの味わいに詰めこまれた、造り手たちの熱い、熱い情熱の物語を追いかけて、日本各地のブルワリーをめぐります。

今から21年前、京都で初の地ビール「京都麦酒」(発売当初は黄桜麦酒)を手がけて以来、関西のクラフトビール界を牽引してきた 黄桜 。清酒メーカーならではの技術を生かした個性的なビールの数々には、根強いファンが多い。

今回、同社の新たなビール「J-CRAFT 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI」を飲むために訪れたのは、ビール伝道師の藤原ヒロユキさん。古代エジプトの小麦を使った「ナイルビール」シリーズの「 ルビーナイル 」をベースに、豊かな香りとまろやかな味わいを持った、魅力的なエールビールを造り上げた。

訪問記の後半では、黄桜のブルワリーレストラン「カッパカントリー」で、「J-CRAFT」の開発を担当した、ヘッドブルワーの宮部芳男さん、研究所課長の北岡篤士さん、研究所主任の榮長裕晴さんに、同社のビール造りについて話を聞いた。

藤原さん:この「 カッパカントリー 」は雰囲気がいいですね。醸造しているところを見ながら、そこで造ったビールを飲めるなんて、ビール好きにはたまらないですよ。

宮部さん:ありがとうございます。おかげさまで日本の方だけでなく、海外からのお客さまにも好評です。

藤原さん:ビールが思わず進みそうな場所ですからね。それでは、ここで造った「J-CRAFT 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI」で乾杯しませんか? 乾杯!

全員:乾杯!

藤原さん:……うん、これは油断したら飲み過ぎてしまう(笑)。しっかりした味わいで食事にも合いそうだし、食後にこれだけをちびちび飲むのも合いそうです。リラックスタイムのビールですね。

北岡さん:こういう色味が濃いビールは重そうな印象を持たれがちだと思うんですが、私たちとしては、個性は出しつつも、あくまで一般のお客さまに好まれる範囲に収めるというか。重すぎず、軽すぎず、というのはすごく意識しましたね。

宮部さん:あとは何よりも色。きれいな琥珀色がこのビールの最大の特徴だと思います。

藤原さん:アルコール度数が高い(7%)のに、大変にバランスが良く飲みやすい。開発していく過程で相当工夫したでしょう?

北岡さん:例えば、オール麦芽ではなく、国産の二条大麦もブレンドすることで、軽いテイストも入れていく。そういう試行錯誤はかなりやりましたね。

榮長さん:単に濃厚なビールということであれば、他社さんも造ってらっしゃるので、飲みやすく、でも味わいが深い。そういう黄桜のビールらしい特徴を出したいと思っていました。

藤原さん:その「黄桜らしいビール」というのは、みなさんはどう捉えているんですか?

宮部さん:「ビールといえばのどごし」と考える方がたくさんいらっしゃると思うんですが、黄桜としては「舌で味わう」という点を大きなコンセプトにしています。

藤原さん:その考え方は清酒メーカーらしいですよね。日本酒は料理と一緒に楽しむことが多いじゃないですか。黄桜さんのビールをいろいろ飲ませていただきましたが、日本酒造りのバックボーンがあるので、ビールだけで主張するというよりも、いろんな食事と組み合わせながら楽しめるビールだなと感じました。

その中でも、軽い料理に合わせるケルシュのようなビールがある一方で、「J-CRAFT 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI」のように、しっかりした料理に合わせたりするビールもある。僕はこのビールは、食後酒としてもいいと思いますね。デザートにも合わせられますよ。

宮部さん:「J-CRAFT 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI」のベースになった「ルビーナイル」も、アルコール度数が高く(7%)、とてもインパクトが強いビールなんですが、そういうビールもすっきり飲みやすく仕上げるというのはずっと意識してきました。

藤原さん:バランスですよね。黄桜さんはそこが非常にうまい。僕はクラフトビールって、どこかに創造性が必要だと思っているんですよ。でも一方で、基礎がないと創造性は長続きしない。僕はずっと絵を描いているんですが、デッサン力がないと画家としてキャリアを重ねていくことは難しいんです。

これはピカソもそうで、彼の若い頃のデッサンというのはものすごくうまい。その基礎があったからこそ、年齢を重ねてから創造性が花開いた。黄桜さんの「ナイルビール」シリーズも、僕は創造性だと思います。ただ、そういうビールを造ることができるのは、ケルシュやアルトといった扱いが難しいビールをずっと造ってきたからですよ。

軽いテイストのビールって、アラがバレるというか、ごまかしがきかないんです。黄桜さんはブルワリーとしての基礎がしっかりしているから、「ナイルビール」とか「J-CRAFT 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI」のような創造性あるビールを造れる。そこが面白いし、素晴らしいと思います。

宮部さん:ホンマに光栄です。正直、そこまで深く考えて造っているわけではなかったので、むしろ、もっと真面目に造らないとアカンなと思いました(笑)

藤原さん:いやいや、基礎ができている人は意識しないんですよ。ただ、ベースがないと次のステップにいけないということですよね。御社は清酒メーカーとしての伝統がありながら、ブルワリーとしても順調にステップを踏んでらっしゃいますよ。ビール造りも、もう21年目ですか。すごいですよね。みなさんはどうしてビール造りに関わることに?

北岡さん:私は今の研究職に就いて18年ほどになりますが、ビール造りの担当になってからは、まだ数年ですね。

藤原さん:自分からビール造りがしたいと希望されたんですか?

北岡さん:いや、うちの会社はそんなに大きくないので(笑)。研究職の人間は日本酒からビール、化粧品まで何でもやります。発酵を軸に幅広い知識が身につくので、非常にやりがいのある仕事ですね。

榮長さん:僕も以前は化粧品の開発に関わっていたんですが、そちらが1年ほどで一段落したタイミングで、ちょうど季節限定の「ビアショコラ」のリニューアルを手掛けることになったんです。それが面白そうだと思って携わらせてもらったところから、ビールの開発をやっています。

藤原さん:日本酒とビールの両方の開発を経験してきて、ビール造りの魅力は何だと思っていますか?

宮部さん:ビールはですね、麦汁が1日でできるんですよ。あとは発酵して熟成させれば完成です。でも日本酒は仕込んでから飲めるようになるまで、もっともっと時間がかかります。なので、製造過程において、精米はこの人、発酵はこの人みたいに、分業制になっています。ひとりが最初から最後まで手がけられるというのは、ビール造りに携わる面白さです。

藤原さん:まさに手作り感、“クラフト”ですね。僕はクラフトビールかどうかを決めるのは、ひとりの醸造家が全体を俯瞰して見られるかどうか、というのが大きいと思っているんです。前回、できたばかりの「 伏水蔵 」という大きな醸造所を見学させていただきましたが、その意味で、黄桜さんのビールはやっぱりクラフトビールですよ。

宮部さん:確かにクラフトビールには、アイデアがあれば、すぐに完成品まで持っていける面白さがありますね。

北岡さん:もちろん、日本酒造りには日本酒造りの良さがあります。ただ、うちは清酒メーカーとしては大きい会社なので、商品を使った冒険というのは難しかったりするんです。それがビールだと製品化までのスパンも短いので、いろんなアイデアを試しやすい。

これからはビール造りで得たヒントを日本酒にも応用していこうと思っているので、清酒メーカーとしても、もっといろんな商品を出していきたいですね。

宮部さん:ビールもまだまだいろんな新しい挑戦を続けていく予定です。そのときにはまた藤原さんに飲んでもらいたいので、ぜひ楽しみに待っていてください。

藤原さん:これからも想像を超えたビールをどんどん造っていってください! 本日はありがとうございました。とりあえず、この美味しいビールを飲みましょう(笑)。

黄桜

J-CRAFT 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI

330ml

日本の2大酒処の一つ、京都伏見にて、老舗蔵元黄桜が清酒作りの伝統と
古代エジプトビールの 研究を融合させ生み出した逸品。
きれいな琥珀色の液色と、コクのある味わいが印象的。
カラメル麦芽の香りと、苦味、甘み、酸味のバランスをぜひ、ワイングラスなどで楽しんで。

黄桜

J-CRAFT 華ほの香 豊香のルビーエール KYOTO FUSHIMI

330ml

京都伏見で、清酒作りの伝統と古代エジプトビールの研究が融合した逸品。
コクのある味わい・きれいな琥珀色が特徴。

黄桜

京都麦酒 山田錦

330ml

黄桜

京都麦酒 ケルシュ

330ml

黄桜

京都麦酒 アルト

330ml

黄桜

京都麦酒 蔵のかほり

330ml

藤原ヒロユキ

今回の旅人 藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。