熱い人と、冷たいビールの物語 クラフトビール物語

Vol.2 銀河高原ビール 「J-CRAFT ヴァイツェン IWATE SAWAUCHI」若い造り手が挑戦した「コク」と「香り」の新鮮なハーモニー。ドイツのモノマネではない、「王道」のヴァイツェンを一杯。

今や、日本全国で作られるようになったクラフトビール。マイクロブルワリーと呼ばれる小さな醸造所から、コンビニにも商品が並ぶ大手まで、その一つ一つにビール造りの哲学があり、ビールに込めた愛がある。一杯のビールの味わいに詰めこまれた、造り手たちの熱い、熱い情熱の物語を追いかけて、日本各地のブルワリーをめぐります。

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▲向かって奥がブルワリー、手前が併設のホテル「森の風 沢内銀河高原」

全国有数の豪雪地帯である、岩手県和賀郡西和賀町。奥深い山から湧き出る清冽な天然水が豊富な地に、岩手を代表するブルワリー「銀河高原ビール」の醸造所がある。同社が誕生したのは1996年。酒造法改正の規制緩和により、旧・沢内村の村おこし事業として始まった。

社名の由来は、宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」。同社が誕生した1996年が宮沢賢治の生誕100年にあたったことから名付けられた。醸造所はブナの原生林に囲まれた山中にあり、夜になると星空が視界いっぱいに広がる。その光景はまさに「銀河高原」の名にふさわしく、隣接するホテルでは定期的に星空の観察会も行われている。満天の星空を眺めながら、できたてのビールを一杯――。そんな楽しみ方もできるのだ。

今回の旅の目的は、銀河高原ビールが新たに仕込んだ「J-CRAFT ヴァイツェン IWATE SAWAUCHI」を飲むこと。盛岡駅からクルマで1時間。ビール伝道師の藤原ヒロユキさんが到着すると、同社代表取締役の小谷昇義さんと、今回の「J-CRAFT」の仕込みを担当した片山圭さんが迎えてくれた。

片山さんはまだ入社4年目の26歳。東京の大学で微生物学を学んだ後、「自分の手でビールを造りたい」という思いから、銀河高原ビールに入社した。若い造り手が仕込んだクラフトビールは、果たしてどんな味なのか? 片山さんに工場を案内してもらいながら、できたての一杯への期待は高まっていく。

▲銀河高原ビールは、衛生管理も徹底的に行なっている。この日は撮影のため、特別に服のままで見学させて頂いたが、本来はキャップにマスク、白衣に手袋まで装着することが義務付けられている。

会社設立の際に銀河高原ビールが手本としたのは、ドイツ・ミュンヘンの「アウグスティナー醸造所」。ミュンヘンで最古の醸造所であり、わざわざ世界中から訪れるファンがいるほど有名なブルワリーだ。

自分たちが造るべきビールを探してミュンヘンを訪れた視察団は、アウグスティナー醸造所のビールに感動する。日本の定番である「ピルスナー」は大麦麦芽を使い、苦味や喉ごしを重視して作られる。しかしミュンヘンの主流である「ヴァイツェン」は大麦麦芽とともに小麦麦芽も使う。フルーティーな香りと舌に残る甘みが特徴的で、飲めば飲むほど癖になるのだ。

▲銀河高原のビール造りの現場は、シルバーのタンクが所狭しと立ち並び、さながら宇宙船の船内のよう。

従来の日本のビールとは違う個性的なビールを造るため、ミュンヘンは西和賀町と気候が似ていることもあってアウグスティナー醸造所が最適ということで「先生」になってもらうことにした。

そこでドイツからブラウマイスターを招聘し、機械一式もドイツから購入。現在も醸造所には、当時の名残であるドイツ製の機械がある。しかしヴァイツェンは日本人に馴染みがなく、造るのにも並々ならぬ苦労があった。まったく目指す味にならなかったり、品質にムラがあったり……。試行錯誤を繰り返していき、現在の銀河高原ビールを造り上げていったのだ。

これまで多数の賞を受賞し、安定した品質が高く評価されている同社。定番の「小麦のビール」を中心に、「ヴァイツェンビール」「ペールエール」などのほか、季節限定商品なども展開する。ファンは全国に広がり、缶や瓶だけでなく、生ビールを提供する飲食店も各地に増加。日本のクラフトビール醸造所の中でも有数の規模を誇るブランドに成長した。

そんなブランドとして確立している銀河高原ビールに、片山さんはこの度どんなアクセントを加え「J-CRAFT ヴァイツェン IWATE SAWAUCHI」を造り上げたのか? 藤原さんの問いかけに、「王道は守りながらも、今までには無かったヴァイツェンに挑戦してみました」と答えた。

▲写真左・ホップは粉砕し加工した「ペレット」と呼ばれる状態のものをメインで使用。ペレットを使うことの良さは、安定的に同じ香りを引き出せることだという。写真下・ホップの香りを真剣な面持ちで確かめる藤原さん。

片山さんが見せてくれたのは、「アマリロ」というホップだ。アメリカ産のホップであり、シトラスのような華のある香りが特徴と言われる。通常はエール系やIPAに使われるホップであり、ヴァイツェンに使用するのは珍しい。

「新しいビールを作る際に、泡持ち・香り・コクの3つをとても大切にしました。中でも『コク』というのは日本人独特の表現で、非常に曖昧なんです。僕は『コク』を『口に残る甘さ』と考えて、普段の銀河高原ビールで作っているヴァイツェンよりも、個性的な甘さを重視しました。だからいつもなら使わないホップを使用してみたんです」(片山さん)

そんな「J-CRAFT ヴァイツェン IWATE SAWAUCHI」を、さっそく飲ませてもらう。グラスに注がれた黄金色の液体を見ているだけでも、思わず喉が鳴る。では、肝心の味は?

「香りは、とてもフルーティー。飲んでみるとモルトの甘味もあり、しっかりしたドイツビールらしい味わいがある。そこに、ホップの魅力が上品に加わっているのが面白い。王道を守りながらも、ドイツのモノマネではない個性的なビールになっているね。素晴らしい!」(藤原さん)

▲写真上・ビールを飲み始めると、その味わいから苦労話までトークが止まらなくなった二人。思わず着座して語り合う。写真下・ビールの伝道師、藤原さんの訪問について「すごく緊張してます…」と語っていた片山さんも、藤原さんのビール評に思わず笑顔。

緊張気味だった片山さんも、その言葉に笑顔を見せた。銀河高原ビール訪問記の後半では、同社のビールを傾けながら、小谷代表取締役も交え、クラフトビール談義にさらに花が咲きます。ぜひ、お見逃しなく。

   

銀河高原ビール

J-CRAFT 華ほの香 ヴァイツェン IWATE SAWAUCHI

300ml

仕込み水として最適な、適度なミネラルを含む岩手県和賀岳の伏流水とドイツ産麦芽を100%使用しています。柑橘系の香りとスパイシーさも兼ね備えたホップの香りにより、爽やかさにこだわりながら、香りを強調しています。

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銀河高原ビール

J-CRAFT ヴァイツェン IWATE SAWAUCHI

300ml

ヴァイツェンの特徴であるバナナ香を思わせるフルーティーな香りを強調し、使用麦芽を増量することで更にコクが増しています。ドイツのビール純粋令に基ずく伝統的な製法のビールで、小麦(ヴァイツェン)麦芽を50%以上配合しています。

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(>後編へつづく)

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藤原ヒロユキ

今回の旅人 藤原ヒロユキ

ふじわら・ひろゆき ビアジャーナリスト、ビール評論家、イラストレーター。1958年生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。季刊「ビール王国」編集主幹。ビールに関する各種資格を取得、ワールドビアカップをはじめ欧米の国際ビアコンテストの審査員を務める。日本外国特派員協会会員。ビールにまつわる著書多数。主な著書に「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎)、「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド)など。